ニュース

「アメリカ発の“全世界監視社会”がやってくる」日本の進むべき道は? ――堤未果×中西輝政の緊急対談

 ドナルド・トランプがアメリカ大統領に就任してから半年以上の月日が流れた。就任直後からロシアゲートほか、度重なるスキャンダルに見舞われ、人事の迷走をはじめ、政策遂行能力は著しく失われた。また、8月に入り、白人至上主義団体への擁護ともとれる発言が取り沙汰されるなど、トランプ大統領誕生以降、我々がかねてより抱いていた“自由の国”アメリカのイメージは、すっかり影をひそめてしまった印象がある。

 いったい、彼の国にいま何が起きているのか。その謎を解き明かす書物として注目されているのが、『アメリカ帝国衰亡論・序説』『【増補版】アメリカから<自由>が消える』の二冊。京大名誉教授の中西輝政氏と国際ジャーナリストの堤未果氏。両著者による緊急対談をお届けする。

お互いの著書を持つ両者。対談は都内某ホテルの一室で行われた

――トランプ政権が発足してから、およそ半年が経ちました。改めて振り返ってみた印象について教えてください?

中西輝政(以下、中西):「トランプはトランプ」ということに集約されると思うんです。日本から米軍を引き上げる、保護貿易政策を推進するといった選挙前の公約は、「大統領に就任したら少しまともになるんじゃないか」なんて空気感も日本にはありましたが、それはやはり幻想にすぎないということですよね。この政権は大変ということは、もっと自覚しないといけない。ショックを受けたり、パニックになる必要は何もないんですけどね、アメリカが画期的に変わっていくんだということは意識しなくてはいけません。

堤未果(以下、堤):大統領選の結果は、それまでのアメリカ社会の変質と国民のマスコミ不信、トランプ選対の選挙戦略、民主党の分裂など、ある意味必然の結果だったと思いますが、その後もトランプ氏個人の言動にかなり振り回されているのが気になりますね。トランプ政権の行方を握るカギは、トランプ氏個人より共和党内の派閥争いや元民主党員の動き、マスコミと政権の関係を見た方がずっと理解しやすいです。

 特にアメリカの主要マスコミの信頼性に疑問符がつけられている今、日本はこれまでと同じ情報源は頼れない。はっきり言って現場に行かなければみえません。我が国にとってあらゆる意味で最も影響のあるアメリカの現状が正確に捉えられていないことは、日本にとって危機的だと思いますね。

――日本人は表面的なところしか見てないっていうのは、お二人の著書の方でも書かれていますね。

中西:日本人から見たアメリカというのは、歴史が短く、無機質。理念や原理、制度、そんな話が先に来るんですね。自由の国、移民の国、豊かな国……。ところが、史観でみると、アメリカって歴史は短いけど、実はすごく歴史に支配されている国なんです。現にアメリカの憲法は、世界で一番古い時代にできた憲法ですからね。大統領も議会も制度的に随分古い。アメリカの大統領はヨーロッパの王様の代替というか真似て作った制度なんです。全世界「アメリカ化」ともいえるグローバリゼーションに失敗して国内に目を向けた今、その古さが際立って見えてきました。

堤:日本の知識層の目に映るアメリカ像も、戦後のままだと感じる事が多々あります。オハイオ州のある米国人医師は私に言いました。「日本の医師たちのように、税収の高い地域や最先端の医療が揃った病院を視察していても、米国医療の現実はみえない。何故医師達がオバマケアに反対なのかもピンと来ないだろう。今のアメリカを知りたければ、地方の自治体病院やそこで働いている医師や患者の実態を直接見にきてほしい」と。これはヒラリー優勢を報じ続けた、都市部集中型のマスコミ報道を見ていても一目瞭然で、アメリカの本質はやはり「地方」なのです。

堤 未果「大病院を見ても米国医療の実態は掴めない」

中西:地方っていうのはアメリカの一番の魂ですよね。そこから壊れてたっていうことはアメリカ全体が壊れていたわけです。都市っていうのは、地方の上に乗っかって生きてる寄生虫のようなものですから。「格差を是正しラストベルトを救うんだ」と支持を集めて大統領に成り果せた。しかし実際にその政策ができるかと言うと、難しい壁がいくつも見えてきましたよね。メキシコ国境の壁を作るよりも、オバマケアをどうやって廃棄するか、公約を守るだけでも大変なことです。議会案もとても通らないし。だけど、この政策や国内の改革などを続けていけば、アメリカは世界に通用しない。世界での影響力を大幅に下げて、国民が住みやすい国にするっていうなら、周りの国のことをみんな切り捨ててやらざるを得ませんね。だけどそれは世界からは孤立しまう。端的にいうと、これが私の思う“アメリカ衰退”に繋がるわけです。

堤:アメリカは世界に背を向けては、衰退してしまうという事ですね。10年以上取材してきて実感するのは、湾岸戦争の頃から、アメリカの主要マスコミは本当に急ピッチで壊れていったなあという事です。世界の中でのアメリカの位置が急変していったあの時期に、マスコミ報道が急速にフィルターをかけ始め、表に見えているものと実態経済がどんどん乖離していきました。

中西:湾岸戦争以後の日米論壇の腐敗は、私が身をもって体験してますよ(笑)。

堤:日米の論壇で? どんな経験をされたのですか?

中西:当時の日本は冷戦が終わって日米経済摩擦も酷かったから「日米関係が壊れるんじゃないか」という心配をお偉いさん方、学会の大御所、霞ヶ関、永田町はしたんです。ソ連の脅威がなくなったらもうアメリカに守ってもらう必要がない。合理的に考えたらそうですね。渡米先でアメリカの先生方と話しているときにこう言ったんです。

「国家にとって永遠の敵っていうのはないから、昨日の敵は今日の友です。永遠の敵はない。したがって永遠の同盟国もない」

 これは19世紀にイギリスの外務大臣を30年間務めたパーマストンって人の言葉から引用した言葉で、ヨーロッパの外交の常識でもあります。当時は東西ドイツも統一しNATOを脱退して自立すると言ってる時代で、そういう時に湾岸戦争が起こった。だから日本のお偉いさんたちやメディアを含めた全部がね、「湾岸戦争でアメリカを批判するのはけしからん、これ以上日米関係が悪くなったらどうするんだ」と……そう言われましたね。当時、アメリカ批判はタブーだったんです。アメリカ・カルトにならない私は、勉強会も学会発表も、寄稿していた雑誌も、すべて場所を奪われました。

堤:そこまでしてアメリカ批判を封じるとは……あからさますぎますね。

中西輝政「長い間、アメリカ批判はタブーだった」

次のページ 
世界の潮流は“監視”の方向に

1
2
アメリカ帝国衰亡論・序説

移民排斥、孤立主義、日本企業批判、イスラム・北朝鮮との開戦?…トランプの絶叫は、大国の断末魔の悲鳴である。「米国なき世界」に備え、今こそ日本は自立せよ。覇権国アメリカの「終わりの始まり」8つのシナリオ。


アメリカから<自由>が消える

飛行機に乗れない!突然逮捕される!言いたいことが言えない…これが「自由の国」で頻繁に起きている!『ルポ・貧困大国アメリカ』の著者が明かすアメリカ社会驚愕の実態。





おすすめ記事