更新日:2022年10月05日 23:56
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「アメリカ発の“全世界監視社会”がやってくる」日本の進むべき道は? ――堤未果×中西輝政の緊急対談

世界の潮流は“監視”の方向に

堤:ロシアゲートの問題は、結局いまも確たる証拠は出てきていません。一番よく報道していたCNNは裏が取れていないこの疑惑を「視聴率のため」に流し続けているという幹部証言が暴露され、大きく信頼を失いました。わたしは個人的にトランプ氏や共和党支持ではありませんが、イラク戦争以降のアメリカ主要マスコミの報道姿勢には、米国内の多くのジャーナリスト同様に、かなり失望しています。日本もそうですが、「報道しない自由」は目に見えない毒のように、国家と民を弱らせていくからです。 中西:第二次大戦時、ナチス・ドイツがヨーロッパ全土を支配していくなか、敗戦濃厚だったイギリスの唯一の活路は「アメリカを戦争に引き込む」ことでした。参戦反対が大多数だったアメリカ世論の調査資料を、書き換えたのはイギリス情報部です。これは陰謀論ではなく、イギリスで公文書として公開されている事実です。 堤:まさに『007』の世界ですね。イギリスは監視国家の本家本元ですが、最近もメイ首相が、「監視体制は欧米全体で国際化し、強化すべきだ」という発言をしていてぞっとしました。NSAの大規模監視どころではない、自由な言論に対する史上最大の脅威が、現実になろうとしていることに。 中西:イギリスという国は自由の国で安心して暮らせる……というのは「何も考えなければ」という枕詞がつきもので、それほど強烈なスパイ王国なんです。我々日本人の文脈でいえば警察国家です。監視をすることは当たり前で、現に60年代、首相を務めたハロルド・ウィルソンがソ連のスパイという疑いをイギリスの防諜機関であるMI5が追及した。証拠は総理大臣の電話を全部盗聴したからです。なぜ、それができるのか。王制だから女王の許可があればできるのです。アメリカの大統領はヨーロッパの王様の代替ということを言いましたが、それにはこんな意味合いもあります。メイ首相が言うようにイギリス・スタンダードが今のアメリカに持ち込まれたら、本当にアメリカの自由はすべてなくなります。イギリス国民がなぜ不自由で不満がないかといえば、それを何百年という伝統で受け入れているからです。

アメリカと中国の両大国に挟まれた日本の進むべき道は……?

堤:女王がいて貴族がいて彼らが自由の守護神であり、最後の保証人。議会が法律を通しても、女王が“No”といえるイギリス。英国民に主権はないんですね。 中西:国民主権じゃないんですよ。国王主権と議会主権。逆説的ですが、だからこそ、イギリスはどんなに監視主義になっても、自由が完全に失われるってことはないです。逆にアメリカは怖いです。 堤:確かにそうですね。二重構造が働かず、全面監視主義になってしまいます。 中西:日本はもっと怖いですよ。官僚社会ですから。 堤:それも別な意味で怖いですね。怖いと言えば、監視国家としてのアメリカも、やはり30年位のスパンで見るとよくわかります。新自由主義が台頭し、格差拡大と国家としての衰退が進む一方で、草の根の反乱を抑えるために当局が監視を強化していった経緯があるからです。愛国者法などはその典型ですが、当局の内部告発者達は今も公正な裁判を受けられず、むしろ技術の進化がアメリカの監視社会化を一層加速させています。日本の共謀罪も法律単体だけでなく、同じ路線の愛国者法が何年もかけてアメリカ社会をどう変えていったのかを見てほしいですね。近未来に関するヒントはトランプ氏個人でなく、日本が後追いする「国家」としてのアメリカの現実に隠されているからです。 中西:性善説に縛られるのではなく、アメリカも中国も「世界はみんな腹黒い」くらいの前提で日本も自立の道を模索していかないと話にならない。そういう段階にきていることは確かですね。 取材・文/スギナミ 中西輝政(なかにし・てるまさ) 47年、大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。三菱大学助教授、スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授、京都大学大学院教授を歴任。12年に退職し、現在は京都大学名誉教授。専攻は国際政治学、国際関係し、文明史。近著『アメリカ帝国衰亡論・序説』 堤 未香(つつみ・みか) 国際ジャーナリスト。ニューヨーク州立大学、ニューヨーク私立大学院国際関係論学科修士号。国連、アムネスティ・インターナショナルNY支局員、米国野村証券等を経て現職。日米を行き来し、米国の政治、医療、教育、農政、など幅広く取材。多数の著書は海外でも翻訳されている。近著『アメリカから<自由>が消える 増補版』
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アメリカ帝国衰亡論・序説

移民排斥、孤立主義、日本企業批判、イスラム・北朝鮮との開戦?…トランプの絶叫は、大国の断末魔の悲鳴である。「米国なき世界」に備え、今こそ日本は自立せよ。覇権国アメリカの「終わりの始まり」8つのシナリオ。


アメリカから<自由>が消える

飛行機に乗れない!突然逮捕される!言いたいことが言えない…これが「自由の国」で頻繁に起きている!『ルポ・貧困大国アメリカ』の著者が明かすアメリカ社会驚愕の実態。

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