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ダイナマイト・キッド “爆弾小僧”のダイナマイト人生――フミ斎藤のプロレス講座別冊レジェンド100<第54話>

ダイナマイト・キッド “爆弾小僧”のダイナマイト人生<第54話>

連載コラム『フミ斎藤のプロレス講座別冊レジェンド100』第54話は「ダイナマイト・キッド “爆弾小僧”のダイナマイト人生」の巻(Illustration By Toshiki Urushidate)

 リングネームの“爆弾小僧”のとおり、爆発的に、太く短く生きたレスラーだった。  イングランドのオールドファッションな“プロレス小屋”からカナダ・カルガリーに渡り、日本でスーパースターになり、WWEのリングでほんの一瞬だけ輝き、燃えつきた。  そのダイナマイトのようなファイトスタイルはのちに世に出る数多くのスーパースターたちに影響を与えたが、キッド自身が歩んだ道はどこか破滅的でもあった。  キッドは、イギリス人レスラーのテッド・ベトレーTed Betleyのコーチを受け、1973年に15歳でデビューした。  イングランドのレスリング・ビジネスの王様は、ビッグ・ダディBig Daddy(本名シャーリー・クラブトゥリー)という超巨漢レスラー。日本でいうとちょうどジャイアント馬場のような存在と考えればわかりやすいかもしれない。  キッドはこのビッグ・ダディーからダイナマイト・キッドというリングネームをもらった。“大きなお父さん”と“爆弾小僧”。これが1970年代のイングランドのプロレスのテイストだった。  5フィート8インチ(約173センチ)、165ポンド(約75キロ)という一般人サイズの体格で“爆弾”のようなプロレスをみせていたキッドを発見したのは、カナダ・カルガリーからイングランドに遠征してきたブルース・ハートBruce Hartだった。  ブルースはブレット、オーエンらの兄でハート家の次男。カルガリーに帰ったブルースは「すごいレスラーがいる。ウチに呼ぼう」と父スチュー・ハートを説得した。1978年の夏のことだ。キッドはまだ19歳だった。  カルガリーにやって来たキッドの体つきをみて、スチューは「これがプロレスラーなのか?」と驚き、落胆したという。  スチューにとって、プロレスラーとは雲をつくような大男、自動車とぶつかっても自動車のほうがはね返されるような人間ばなれした肉体の持ち主でなければならなかった。  この時代のカルガリーのスタンピード・レスリングのメインイベンターは、“アナコンダ男”マーク・ルーインMark Lewin、“流血大王”キング・カーティス・イアウケアKing Curtis Iaukea、“踏みつぶし屋”アーチー・ゴーディーArchie Gouldie(モンゴリアン・ストンパー)といった中年の大型ヒールあちだった。  キッドの動きは、それまでにスチューが目にしてきたどんなスタイルのプロレスともちがっていた。  高速スナップ・スープレックス(ブレーンバスター)。トップロープからの正面跳びミサイルキック。ダイビング・ヘッドバット。体ごとぶつかっていくエルボー。ボールが弾むようなバンプ(受け身)……。  63歳(当時)のスチューは「こういうものは生まれて初めてみた」とキッドのプロレスのざん新さを認めた。  ブルース、三男キースKeith、そしてルーキーだったブレットは、キッドが試合をするのにちょうどいいミッドヘビー級(ジュニアヘビー級)の体格だった。  キッドが“一座”に加わったことで、スタンピード・レスリングのスタイルそのものが変わった。ヘビー級とミッドヘビー級の2階級ウエート制がカルガリーの売りものになった。  ブリティッシュ・コモンウェルズ・ミッドヘビー級王座(英連邦ミッドヘビー級王座)をめぐるキッド対ブレットの闘いがカルガリーの名物カードとして定着し、それから2年半後、キッドのイトコのデイビーボーイ・スミスもマンチェスターからカルガリーにやって来た。  カリガリー・パビリオン定期戦のリングサイド3列めのまんなかあたりには、まだ中学生だったクリス・ベンワーがいつも座っていた。  初来日は1979年(昭和54年)6月。国際プロレスで阿修羅・原が保持していたWWU世界ジュニアヘビー級王座とみずからが保持する英連邦ミッドヘビー級王座をかけてダブル・タイトルマッチで2回対戦。4分7ラウンド制のヨーロッパ・ルールでおこなわれた試合は2戦とも時間切れ引き分けに終わった。  ヘビー級とミッドヘビー級の2階級ウエート制は、カルガリーだけのトレンドではなかった。  キッドがカルガリーでデビューした年、新日本プロレスの藤波辰爾(当時・辰巳)がニューヨークでWWWFジュニアヘビー級王座を獲得した(1978年=昭和53年1月23日、マディソン・スクウェア・ガーデン)。
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キッドと藤波の遭遇は時間の問題だった
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