この日、炊き出しには40名ほどの人々が並んでいたが、やけにベレー帽をかぶっている人が目に付いた。その数ざっと7～8人。ベレー帽率としては異常な高さである。 「このベレー帽？ 米軍じゃないですか？ 米軍！」 　ちょっとグイグイ聞きすぎてしまったようで怒られてしまった。とはいえ、米軍とはなんのことだろう。ほかのベレー帽おじさんにも聞いてみた。 「渋谷区の教会にね、米軍の人たちがよく服を寄付してくれるんだよ。アメリカの人ってきっとベレー帽が好きなんだろうね。ちょうどこの前集会があったから、いまはみんなベレー帽をかぶっているね」 　米軍の気分次第ではあるが、渋谷区におけるホームレスのファッションにはトレンドまで存在したのである！ 　さらにこのおじさんはホワイトカラーのデジタル型腕時計まで自慢気に見せてくれた。これも渋谷の路上で拾ったらしい。 「カネとシケモク（タバコ）以外ならなんでも落ちているよ」 　ディスプレイには正確な時間が示されており、電池が切れた場合は買うのがもったいないのでまた新しい時計を探しに（拾いに）行くそうだ。 　上野・新宿・池袋など、都内にはホームレスが生活している街がいくつかあるが、ここまでのファッション性は渋谷区でしか見ることができないはずだ。 　拾いものや貰いものとはいえ、みんなオシャレなアイテムには、それなりに愛着を持っている。「このアイテムどこで手に入れたんですか？」と声をかけてみれば、ちょっと照れながらも嬉しそうに今日のファッションポイントを紹介してくれるはずだ。＜取材・文・撮影／國友公司＞元週刊誌記者、現在フリーライター。日々街を徘徊しながら取材をしている。著書に『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』（彩図社）。Twitter：@onkunion