ピンチは器を試すチャンスさん――「お金0.0」ビットコイン盗まレーター日記<第8回>
———
——
そうか、この二人はこんなことを考えてたのか。ピンチは当人の器を試しにきたチャンスさん。
確かに今、僕はどっから見てもピンチだ。正直どうしようもない。方法も浮かばない。でも、この人たちの言うとおり、もがいている様子が本になったり漫画になったり映画になったり…いやいや、ならないでしょ。
いや、でも、なんだろうこの自信満々の人たちは。僕に見えてない未来が見えてるんだろか。僕の不幸で一儲けしたいんだろうか。そうはいきませんよ。どっちかというと僕はもう真面目に堅実に生きたいんです。だから面白がってないで、なんかお仕事を紹介してくd…
【着信:母】
僕「…はい」
母「何してるん?」
僕「い、家にいる」
母「それで?」
僕「それで?」
母「親友さんに、お金なくなったこと、ちゃんと言えたん?」
僕「まだ、いえてない」
母「はあ?(゚Д゚)なんで言わへんの?」
僕「…機会を…逃した」
母「アホか。逃すな。はよ言わなあかんやろ」
僕「……」
母「伯母ちゃんと弟にも言うで」
僕「え…それは…僕から言うよ…」
母「いつ言うんよ?」
僕「どうするか考えてる。まだ取引所から返事もきてないし」
母「でも、オカネもう返って来ぉへんねやろ?」
僕「…まだ…わからんよ…」
母「私と伯母ちゃんと弟は、今返さんでいい。でも、親友さんには、言ってすぐ返さなあかん」
僕「うん…」
母「はよ言いなさい」
僕「ハイ…」
母「じゃあの」
ガチャリンコ
正論だ。こんなに正論を言う母だったのか。AさんBさんの話はいつ形になるかわからないけど、お金が入るとしてもずっと先のはずだし、それはそれとして乗っかりつつ、オカンの言うとおり今の状況は親友に伝えておくべきだろう。気が重いなぁ…。ほんとに気が重い。LINEで送って、返事がなかったら今日はもう寝てあした考えよう。サッと送ろう。うん。そうしよう。
僕
「あの…、今晩のご予定はいかがでしょうか。お話したいことがあります」
ピコ-ン
食い気味に返事が来た…
親友
「わかりました。いつもの日本酒居酒屋にしましょう」
僕
「…お願いします」
次号へつづく
(いでの・たつや) 1994年、兵庫県生まれ。元かけだし俳優、高校卒業と同時に上京。文学座附属演劇研究所卒業後、エキストラ出演やアルバイト勤務を華麗にこなし、たまたま仮想通貨で得た大金を秒速で盗まれる。Twitterアカウント(@tatsuya_ideno)
1
2
この連載の前回記事
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ