新幹線殺傷事件の容疑者はハイデガー『存在と時間』を読んでいた…凶悪犯の意外な愛読書
6月9日、新横浜―小田原間を走行中の東海道新幹線「のぞみ265号」で刃物を持った男が突然乗客に切りつけ、女性2人が重傷を負い、先に切りつけられた女性2人を助けようと止めに入った男性1人が死亡したという事件。神奈川県警は、殺人未遂容疑で現行犯逮捕した無職・小島一朗容疑者(22歳)について、容疑を殺人に切り替えて11日に送検した。
この事件ではワイドショーのテレビカメラなどに映った小島容疑者の本棚の様子も話題になっている。『存在と時間』(ハイデッガー)や『罪と罰』(ドストエフスキー)、『楢山節考』(深沢七郎)、『ガリア戦記』(カエサル)のほか、塩野七生や『あずまんが大王』(あずまきよひこ)など幅広い名作に親しんできたようだ。
実は、過去の凶悪事件の犯人には熱心な読書家であるケースが少なくない。むろん書物それ自体に悪は内在しない。だが、犯人たちは時に書物の内容を曲解し、書物を自身の犯行の動機にしているというのも多かれ少なかれ事実だろう。
過去、凶悪犯に影響を与えた書物とはどのようなものなのか。代表的なものをまとめてみた。
2007年に千葉県市川市において、英会話学校講師が殺害された「リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件」。被害者と同居していた女性から行方不明の連絡を受け千葉県警が捜査を開始し、市橋達也宅の家宅捜索に踏み切り、ベランダに置かれていた浴槽の内部で土に完全に埋められた被害者の遺体を発見したものの、市橋は逃亡した。
美容整形を施した市橋の逃走劇は、2007年3月26日から2年7ヶ月に及んだが、逃亡生活の様子や心境などをまとめた手記『逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録』(幻冬舎文庫)には、その間に自分が読んだ本のことも書き記しているようで、J・D・サリンジャー『The Catcher in the Rye』の原書と英語とフランス語の辞書を購入し、沖縄潜伏中に読んだという。
他にも「マンガ『バキ』を買った。地下闘技場戦士が五人の死刑囚と闘う話の箇所を選んで買った。(中略)強い死刑囚を見て、自分を励ますためだった」という記述や、リンゼイさんに薦められていた『ハリー・ポッター』の原書、横山秀夫『半落ち』、東野圭吾『殺人の門』、天童荒太『悼む人』などの書名もあるそうだ。
大阪南港フェリーターミナルで逮捕された市橋は、殺人と強姦致死の罪で起訴され、第一審で無期懲役となった。
2016年7月26日未明、神奈川県相模原市の障害者福祉施設「津久井やまゆり園」を施設の元職員・植松聖が刃物で襲い、入所者19人を殺害、入所者・職員26人に重軽傷を負わせた「相模原障害者施設殺傷事件」。
同年2月に植松が精神科病院に措置入院していた際、医師に対し「ヒトラーの思想が2週間前に降りてきた」と話していたそうで、事件後にはナチス・ドイツが戦時中、障害者を「生きる価値がない命」と呼び、組織的に障害者20万人を殺害したことを指しているとされた。また、外出時には落合尚之氏の漫画『罪と罰』(双葉社)全10巻と、アドルフ・ヒトラーの『わが闘争』(角川文庫)を持ち歩き、知人に「バイブル」と説明。読むように勧めていたとの報道もあり、逮捕後も障害者への殺傷行為の「正当性」を主張しているという。
検察側による起訴前の鑑定では植松はパーソナリティー障害と診断され、検察側は「完全責任能力あり」として起訴したものの、今年1月には横浜地裁(青沼潔裁判長)が、弁護側が請求していた精神鑑定の実施を決め、事件当時の精神状態や責任能力などを調べている。初公判までは道のりが遠く、被害者多数で審理自体の長期化も避けられそうにないようだ。
リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件・市橋達也×『ライ麦畑でつかまえて』(J・D・サリンジャー)
相模原障害者施設殺傷事件・植松聖×『わが闘争』(アドルフ・ヒトラー)
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