自分の人生、多数決で決めていいわけねぇだろ――「お金0.0」ビットコイン盗まレーター日記〈第20回〉
―[「お金0.0」]―
約1000万円の仮想通貨が盗まれた出野達也(23歳)。連載開始、漫画化決定……するが、借金で首が回らない状況に1ミリも変わりはない。そんな中、人生を波乱万丈へと導く首謀者・Aに誘われたのは、港区の社長人脈が集う西麻布の地下のお店。時給70円で働くことが決まった出野に対して、善意の傍観者である漫画家・クニが取った行動は? 「お金0.0」、連載20回目。ロードサイドのハイエナ・井戸実の持論が炸裂します。
第20回 マジメの値打ち
——-先週からのつづき
A「ということで、SPA!の連載がはじまって、漫画の連載も決まって、必要なのはネタに使える面白汁と達也の生活費なんだけど、この店で達也働かせてあげてくれる? 時給70円でいいから」
井戸「いいっすよ。じゃあ、おまえ明日から来い」
出野「ありがとうございます!!!」
A「よかったねぇ…ウンウン」
チカ「よかったわねぇ♡」
いやいやいやいや。みなさん。冷静に考えましょう。特に出野くん。
A「この店で働いたら、達也はいろんな社長に叱られる。みんなそれぞれの立場から遠慮なく達也を叱ってくれる。それぞれに違ったビジネスを持っていて、カッコつけてない本音で達也を教育してくれる。気使われたり遠慮されたりする年齢になる前に、この環境でたくさんいろんな方に叱っていただいて、みなさんから信頼されるようになったら、何か自分でビジネスを始めてみなさんに恩返しする。って展開になったら最高だよねぇ」
井戸「いいっすねぇ。賢い奴ニガテだからこういうのが丁度いいです」
A「ウンウン」
井戸「じゃあ時給70円で、お客さんからご馳走していただいた分はドリンクバックで」
出野「ありがとうございます!」
チカ「じゃ、達也くん、あしたからよろしくね♡」
出野「はい!!!!」
―――
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―
クニ「あの…」
井戸「ん? なんだ漫画家」
クニ「いえ、皆さん盛り上がってるところたいへん恐縮なんですが、いくつか質問がございまして…」
井戸「いってみ」
クニ「はい。その、出野くんはいま大変な状況にあって、ビットコインも盗まれて、これからお金を借りたみなさんにも返していかないといけないとおもうんですね。で、一生懸命働いたらしばらくして返せるだろうと思うんですが、その、時給70円だったとしたらなかなか返せないんじゃないかと…」
井戸「漫画家」
クニ「はい」
井戸「おまえ、自分が漫画描いてるのはなんのためだ?」
クニ「そりゃもう自分の作品を数多くの人に読んでもらうためです!」
井戸「チッチッチッチッ」
クニ「ちがう?」
井戸「ちがう。たくさん読んでもらえるってのは、目的にしちゃいけないんだよ。わかる? まぁわかんねぇかもなぁ…。チカちゃんハイボール」
チカ「はいー♡」
たくさん読んでもらえることを目的にしちゃ、いけない?????
井戸「そうだ。漫画家、たくさん読んでもらえることを目的にしちゃダメなんだ。わかるか? 俺もわかるようになるまで15年かかった」
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(いでの・たつや) 1994年、兵庫県生まれ。元かけだし俳優、高校卒業と同時に上京。文学座附属演劇研究所卒業後、エキストラ出演やアルバイト勤務を華麗にこなし、たまたま仮想通貨で得た大金を秒速で盗まれる。Twitterアカウント(@tatsuya_ideno)
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