自分の人生、多数決で決めていいわけねぇだろ――「お金0.0」ビットコイン盗まレーター日記〈第20回〉
クニ「どういう…ことでしょう…」
井戸「あのな、人気商売っていうのはさ、【へー】って言われたら終わりなんだよ」
クニ「へー?」
井戸「そう。へー。特にコメントがないときのリアクション。自分が何者なのかを話したときとか、自分の作品を見せた時に【スゲェ!】って言ってもらえなかったらもうダメなの」
A「そうそう」
チカ「ハイボールおまたせしましたぁ♡」
井戸「ありがとう。でだ。ここにいるポンコツは、自分の意志とは関係なくその【スゲェ!】の入り口に立ってるの。誰も経験したことがないトラブルを経て、まだ生きてて、しかも手短かに伝えやすい。人気商売的にはこんなに美味しいツカミってめったにないんだよ」
クニ「でも、出野くんはまだ23歳ですし、真面目にコツコツ働いたら借りたお金を返していくこともできますよね。普通の青年がそんな無理に芸人みたいなことを目指さなくても、真面目に生きていけたらそのほうがいいんじゃないですか?」
井戸「アー」
A「アー」
クニ「なんですかふたりとも」
井戸「漫画家。ひとつだけ質問」
クニ「はい」
井戸「どっかで見たことありそうな、真面目な漫画、読みたい?」
クニ「……。いえ…」
井戸「だよな。みんなもう、モノも漫画も食べ物も、いろんなもの知ってるから、真面目なものには飽きてんだよ。みんな、誰も見たことがないおもしろいものを探してる。昔の日本は真面目なものを安く作ってたらそれなりに生きていけたけど、いまはそんなことしてらポックリ負ける時代なんだよ」
クニ「ポックリ…」
井戸「だからさ、このポンコツがどこまでデカくなれるかわかんねぇけど、入り口に立ててるだけでも幸運なんだから、あとは本人次第だけどさ、ちょっと見てみたいじゃん」
達也「(ポンコツ…)」
クニ「でも、それって本人の意志とは関係なくて、お二人が見てみたいってだけなんじゃないでしょうか」
A「そうともいう。僕らとしてはどちらに転がっても良い暇つぶしにはなる」
クニ「それ、ちょっとかわいそうじゃないですか?」
井戸「漫画家ちょっと座れ」
クニ「はい。座ってます」
井戸「あのな、おまえの言ってる【ちょっとかわいそう】ってのは、何もしないやつがよく使うことばだ。自分が何もしないことを正当化するために、小学校っぽいことしか言わない連中の言葉だ。だけどな、この店に来てる人間は納得のいかないことに出会ったら、徹底的に戦ったり楽しんだりしながら理想の状態に近づけていく。かわいそうとか不謹慎とか違和感があるとかけしからんとか言ってないで、どんどん行動に移すんだよ。自分の人生決めんのに、多数決で決めてっていいわけねぇだろ」
クニ「……」
達也「あの…」
井戸「なんだポンコツ」
達也「ぼく、がんばります。何がどうなるかまったくわかりませんが、幸い、失うものはありません。しばらくの間勉強させてください」
A「イイハナシダナー」
チカ「よかったわねぇ…♡」
井戸「そうだ漫画家、もうひとついいこと教えてやる。」
クニ「はい」
井戸「このチカちゃんは、彼氏募集中だ。そこ、しっかり漫画に描いてやってくれ」
クニ「や、やってみます…」
次号へつづく(いでの・たつや) 1994年、兵庫県生まれ。元かけだし俳優、高校卒業と同時に上京。文学座附属演劇研究所卒業後、エキストラ出演やアルバイト勤務を華麗にこなし、たまたま仮想通貨で得た大金を秒速で盗まれる。Twitterアカウント(@tatsuya_ideno)
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