メンズのコートは、とにかく大きめを選ぶべき理由
【モードをリアルに着る!オム Vol.22/小林直子】
服全体のシルエットが大きくなると、それを形作る素材も変わってきます。なぜなら形を大きくするためには、その大きな形を表現するのにふさわしい、肉厚でしっかりした素材が必要となるからです。そのような素材でないと、大きな形の服のシルエットを維持することができません。
このところハイブランドのコレクションで提案されるほとんどのコートはシルエットがビッグなものとなっています。そしてそれを表現するために多く使われるのは、綿入りの合繊繊維、地厚のコットン、または紡毛のウールなどです。
ウールには疏毛(そもう)と紡毛(ぼうもう)と呼ばれる2種類のタイプがあります。疏毛とは、洗った羊毛をさらに疏毛機にかけて、軽い夾雑物や短繊維を取り除き、もつれを平行に引きそろえられた毛で織られた生地で、やや光沢があり、あまり地厚ではないものです。ウールギャバジン、ウールサージなどが代表的なものです。
一方、紡毛とは、短い繊維を集めて平行に配列し、引き伸ばしてよりをかけて作られた羊毛から作られた織物のことで、縮絨起毛した厚地織物が多く、代表的なものとしてはフラノ、メルトン、ツィードがあります。ビッグシルエットのコートを作るとき、使う素材はおのずと厚地の紡毛素材となります。
タイトなシルエットが主流であったときも、Pコートやダッフルコートはメルトンやフラノで作られていましたが、より大きなシルエットを作るためにここ最近、多く見られるようになったのがツイードやモッサなど、より糸が太く起毛している素材です。大きなシルエットを作るために太い糸で織った地厚でラフな表面の生地を使い、その表面の素材感のバラエティを楽しむようになってきたのがここ最近の傾向と言えるでしょう。
2018年秋冬のジバンシィのコレクションは男女合同のもので、新しくアーティスティック・ディレクターに就任したクレア・ワイト・ケラーによる2度目のコレクションでした。女が考える格好いい男のスタイルとはどんなものか、クレアが出した答えがこの80年代調のクールなルックです。格子柄に織られたウールのコートは肩幅を広くとり、丈も長め。80年代と違うのは、大きくはあるけれども、肩で風切るタイプのいかつい肩パッドは入れず、全体にリラックス感のあるゆったりしたシルエットにしているところです。触ると紡毛独特の温かみが感じられるビッグシルエットのコートが久々に復活してきました。
ここ数年、冬はダウンコートや毛足の短いフラノのコートばかり着ていてそろそろ飽きがきているのではないでしょうか。たまにはこんな紡毛のビッグシルエットのコートも悪くはないでしょう。
では、コートの選び方です。まずは素材感のある紡毛のビッグコートを探しましょう。素材感があるとは、触ってみてぼさぼさと毛羽立った感じや凹凸が感じられる素材のことです。疏毛のように触ってみてしなやかでさらさらする感じではありません。アストラカンやシャギーなど、動物の毛並みを想起させられるものもありますので、そういったものを探してみましょう。
次にシルエットです。私の個人的なリサーチによると、現在30歳前後の方は今まであまりウールのコートの下にジャケットを着たり、スーツを着たりしたことがないようです。そのため、ビッグシルエットのコートを着てみると戸惑うようですが、その戸惑うほど大きな感じがビッグシルエットです。目安はジャケットの上にも羽織れるほどの大きさです。いつも着るジャケットの上に着られるぐらい大きなものを選びましょう。また、ロングコートが今の気分ではありますが、長いと動きづらいなど、使い勝手が悪い部分もありますので、丈は好みでいいでしょう。
紡毛のコートを選ぼう
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ファッション・ブロガー。大手ブランドのパターンナー、大手アパレルの企画室を経て独立。現在、ファッション・レッスンなどの開催や、ブログ『誰も教えてくれなかったおしゃれのルール』などで活躍中。新刊『わたし史上最高のおしゃれになる!』は発売即重版に。新刊『お金をかけずにシックなおしゃれ 21世紀のチープシック』が発売中
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