更新日:2023年03月21日 16:04
恋愛・結婚

昭和的ラブホが密集する鶯谷に登場した「第二のバリアン」/文筆家・古谷経衡

独りラブホ考現学/第11回

完全にバリアンを模倣したホテル“ピュア・アジアン”

ラブホの概念を一変させたリゾートラブホ

 筆者は本連載第5回で、ラブホテル業界の革命児として「ホテルバリアンリゾートグループ」の存在を挙げた。その要旨とは、インドネシア共和国のバリ島(南国)をモチーフにした同ホテルが、これまで殺風景だったラブホテルの概念を一新させ、新しく「リゾートラブホ」というジャンルを開拓し、主に女性客に訴求する店舗づくりを主導することによって、業界内でも次々にバリアンに追従する動きが出てきていること(室内リニューアル)、等々である。  確かに、「ホテルバリアンリゾートグループ」は、ラブホテル界にとっては革命であった。フロントは岩清水と小鳥のさえずりが漂う。フロアー各所には南洋の観葉植物、木彫りの彫刻やカエルをモチーフにした、いかにも南国リゾート風の小物で占められている。  日本のラブホテル事情を全く知らない外国人がバリアンリゾートグループを訪れたなら、これが新型方式のセックス・ホテルであることに気がつくまで、多大な説明と時間を要するであろう。それほど、バリアンの衝撃は大きく、そしてバリアンの登場により旧来のホテルグループは、回転ベッド、室内自販機、スロットマシーンさえ置いてあれば、あとは適当に客のほうが忖度して帰ってくれるという方程式を崩さざるを得なくなった。  通常のホテルと同じく、ラブホテル業界にも刷新と革新が必要で、常に顧客のニーズの先を行くサービスを提供しなければ生き残れない。バリアンが南国風の内装を貫く一方、色とりどりの入浴剤をプラスチック・カップに詰めて室内に持ち込む方式(筆者はこれを、入浴剤ビュッフェ形式、と勝手に呼ぶ)は瞬く間に、バリアン以外のラブホでもスタンダードになった。  入浴剤をブッフェのように室内に持ち込めるという方式は、何の設備投資も必要がないのにもかかわらず、これまでのラブホテル業界では考えたことのない奇抜で新鮮なサービスであった。だから現在、少しでも改装の加わっているラブホは、ほとんど例外なくこの入浴剤ビュッフェ形式を採用しているのである。

バリアンそっくりのラブホが鶯谷に

 さて、そんなバリアンの起こした革命と快進撃に追従するように、既存のラブホテルを改装するなら、中途半端にバリアンに似せたものではなく、ほとんどバリアンと一緒の構造に変えたほうが良いと判断する経営者も続出した。  そのひとつが、都下有数のラブホ街である鶯谷にある。該地にあるラブホテル「ピュア・アジアン」は、その名の通り、「アジア」をモチーフにした外装と内装に貫かれており、明らかにバリアンに触発を受けた「鶯谷における第二のバリアン」の呼び声が高い。
ホテル”ピュア・アジアン”

廊下の至る所にある南国風の間接照明

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第2のバリアン『ピュア・アジアン』
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(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数

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