更新日:2023年03月28日 09:33
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連載書籍化のため、デリヘルを5回呼んだ結果――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第49回>

掲示板の噂は本当だった

 ちなみに、代表的な書き込みを要約して伝えると以下のようなものだ。 「変な臭いがする。体臭とかではなく、とにかく変な匂いがする」 「何の得にもならない嘘を平気でつく」 「5千円札を出すと発狂する」  出るわ出るわ、ヤバイ情報の数々。ほんとかよ~と言いたくなる情報が羅列されており、なんだか逆に興味が出てきた。これが全部本当だったら完全に狂ってるでしょ、この人。  いったいどんなヤツが来るのか。もうワクワクしかない。  このヤバい女を呼んだ日は雨だった。  郊外にありがちな少し変わった構造のラブホテルだった。1階がガレージになっていて、扉をくぐると長い階段があって、その上が部屋になっている。その階段がちょっと尋常じゃないくらい長く、おまけに段差が一様じゃないので、かならず躓くというトラップ付きだった。 「そろそろ来るかな~、やばい女」  みたいに待っていると、ドンドン、とドアをノックする音が微かに聞こえた。と言っても、ドアは長い階段のはるか先にあるので、本当に耳を澄ましていないと聞き逃してしまう。もう一度、耳を澄ましてみると確かにドアがノックされている。  急いで階段を駆け下りるが、ドアが開かない!  どうもこういう構造のラブホテルは料金を払うまでドアが開かないシステムになっているらしく、フロントに電話して開錠してもらわなければならないようだ。その電話は上の階にある。急いで登るが、ドア、めちゃくちゃ叩かれている。 「ガンガン! 開けろ! ガンガン! 開けろ! ド・ア・開・け・ろ!」  なんか叫んでいる。  ナマハゲでも来たかと思うほどにドアを叩かれている。その叩き方は野蛮そのもの。この瞬間、いくら取材とはいえとんでもない魔物を召喚してしまったんじゃないだろうかと不安になった。  フロントに電話して遠隔で開錠してもらうと、カチャッという音がして開いたことを悟ったのか、ナマハゲが勝手にドアを開けて入ってきた。ドスドスと階段を上がってくる。ナマハゲが上がってくる。 「変な臭いがする。体臭とかではなく、とにかく変な匂いがする」  闇掲示板の書き込みがリフレインのように頭の中に響いた。果たして本当なのか、そしてどんな匂いがするのか。 「まいど~」  階段をのぼりおえて姿を現した彼女は、確かになにか変な臭いがした。体臭でもない、香水でもない、けれどもけっこう強烈に匂う何かだ。というか、「まいど~」という挨拶もまあまあヤバい。
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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