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ドラッグの売人に間違えられたら歯痛が治った話――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第46話>

 昭和は過ぎ、平成も終わり、時代はもう令和。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか――伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート! patoの「おっさんは二度死ぬ」【第46話】ドラッグ、ダメ、ゼッタイ!  随分と昔の話になるが、ヤクの売人に間違えられたことがある。  昨今では、芸能人のドラッグ問題が報じられ、大麻や覚せい剤、危険ドラッグに田口淳之介とメディアを賑わせているが、その昔も、やはりメディアは薬物問題を狂ったように報じていた。  けれども、そういったものはどこか別の世界の出来事だと感じている自分がいた。早い話、自分とは関係ないと考えていたのだ。  僕は歯が痛かった。  なぜか突如としてシクシクと痛み始めた奥歯は完全に正気を失わせようとしていた。ここで歯医者にいければよかったのだけれども、いくつになっても歯医者は怖い、なんでこんなになるまで放置していたんだ、と怒られること請け合い。行きたくない。なんとか自力で治らないかと苦悶する日々が続いたのだ。  それにしても歯痛ってやつは本当に我慢できない。  これが、どこか腕の傷だとか、足の骨折だとか、そういった類の痛みなら、まあまあ我慢できるだろうし、時間の経過によって痛みも治まってくるはずだ。治癒だ。痛みと共にこの憎しみまで薄れていくというのか、いいやこの復讐心だけは消えやしない、みたいなセリフもポンポンでてくる。  けれども、歯痛だけはシャレにならない。とにかく我慢できない痛みが続き、おまけに時間の経過と共に癒えそうな気配が微塵もない。下手したらどんどん悪化しそうな、新進気鋭の若手みたいな伸びしろを持っていやがる。  仕方がないので、その痛みをごまかすべく、鎮痛剤であるバファリンを飲みまくって「半分は優しさでできている」と急場を凌いでいたのだけど、飲み続けているとどんどんと効かなくなってくる。薬に対する耐性がついて強化された自分、とややうっとりするが、歯が痛くて現実に引き戻される。事態は何も解決してやいない。  困り果てた僕が編み出した戦法が、ゲーセンで踊り狂う若い女を見る、だった。  当時は、ゲーセンに躍るゲームが置かれており、ちょっとしたブームになっていた。おまけに、若い女の間でそれが流行しているようで、活動的な感じの生娘が、やれホットパンツだ、やれチューブトップだ、と刺激的かつ半裸に近い状態で踊り狂っていたのだ。  その光景を眺めていると、歯痛が嘘のように消え失せた。本当に、いまだにこのメカニズムは理解できないのだけど、踊り狂う女を見ていると歯の痛みを忘れることができたのだ。少なくとも、その瑞々しき体が大きく揺れ動く光景を眺めている間は歯痛を忘れることができた。完全にバファリン以上の薬効だ。
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とてつもない美女が話しかけてきた
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