エンタメ

連載書籍化のため、デリヘルを5回呼んだ結果――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第49回>

苦難を乗り越えて生まれた書籍、ぜひお買い求めください

 いろいろ考えた結果、この臭いは雨が降り出す前の臭いにかなり似ていることに気が付いた。  夏の日、そろそろ雨が降るぞ、という時にアスファルトから立ち込める匂いだ。あれをかなり濃厚にしたものだ。かなり強い臭いである証拠に、部屋に置かれたプラズマクラスターの空気清浄機が彼女の登場に合わせて勝手にマックス稼働を始めたほどだ。 「今日は暑いね~」  たしか、そんな感じで雑談を切り出したと思う。この辺の雑談をきっかけに会話を発展させていって、色々と話を聞き取材につなげる。これまではそれで成功してきた。しかし、ナマハゲは一筋縄ではいかなかった。 「ほんと暑い。暑すぎてさっきまで洞窟にいた」  絶対に嘘だろおまえ。  もしかしてってこともあるので会話しながらスマホで検索してみたけど、周囲数十キロに洞窟はない。 「何の得にもならない嘘を平気でつく」  まさにこれだ。この嘘の怖いところは、普通、嘘ってやつは何らかの目的があってつくという側面がある。  自分を良く見せようとする虚栄だったりそういった感情があるはずだ。なのに、それを完全に無視しているという点が怖い。なにせ、さっきまで洞窟にいた、という嘘に何とも思わない。彼女自身も何も得をしない。 「何分にしますか?」 「じゃあ、60分で」 「15,000円です」  僕はドキドキしていた。なにせ、あの書き込みを覚えていたからだ。 「5千円札を出すと発狂する」  この真偽を図るため、今回、15,000円の料金を5千円札3枚で用意してきた。さっとそれを差し出す。どうなるか、ドキドキしながら差し出した。 「けええええええええええええええええええええ」  発狂した。  と言う感じで抑揚のない声をずっと出していた。絶対音感がある人が聞いたら「ミドね」と言ってしまいそうな雄叫びで、ちょっと怖かった。ついでに、空気清浄機がまたマックスパワーで動き始めた。 「私ね、本当に五千円札ダメなのよ」  やっと落ち着いたナマハゲは、切々と語り始めた。なぜ五千円がダメなのか。  まあ、よく分からない言葉が多かったけど、要約すると樋口一葉の目が怖くて夢に出てくるらしい。 「それでね、わたしってたぶん忍者の末裔だと思うんだけど、そのせいかよく洞窟行くのね、それで、五千円札を思い出すんだけど……」  良く分からない話を延々と60分聞かされながら、こいつはやべえ、と思ったのでした。そんな苦難の取材を経て完成した書籍版「おっさんは二度死ぬ」是非ともお買い求めください!(忍者の末裔は出てきません) 【pato】 テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri) ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

1
2
3
4

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

おすすめ記事