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京アニ放火事件の思わぬ余波…中国アニメにその座を奪われる危機

 放火事件の犠牲者数では平成以降最悪となった京都アニメーション(京アニ)放火事件。未来あるアニメーターたちの命を奪った惨劇に、世界中から追悼の声が届いた。
京アニ

日本以上の賑わいを見せる上海で開催された同人誌即売会の様子。同人誌のクオリティも遜色なく、優れた才能が存在することを示す

京アニ放火事件の思わぬ余波…クールジャパン終わりの始まりか?

 果たして京アニは復活することができるのか。事件の被害者を悼む声が集まる一方で、多くのファンが心配しているのは、今後の作品動向だ。9月からの上映が危ぶまれていた劇場版『ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝』は予定通り上映することがアナウンスされたほか、焼け残ったサーバーからデータを回収することに成功したことも報じられている。それでも、今後の行方はわからない。  他にも劇場版アニメ3作品の制作がアナウンスされていたが、おそらくその完成は難しいと見られている。その最大の理由は人材だ。会社設立の’81年から数えて38年。京アニの名が知られるきっかけとなったテレビアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』が放映された’06年からは13年がたった。その間に積み上げられたノウハウや人的資産が、今回の事件でほとんど失われてしまったわけだ。  ファンによる京アニへの寄付は、国内だけでも10億円を突破したが、いくら資金があっても、人材育成に必要な時間を早送りできるわけではない。そのため、将来を悲観する業界関係者は多いのである。

中国アニメにその座を奪われる危機

 しかも、これを契機とした日本のアニメの国際競争力の低下は、今後の世界のアニメ勢力図を大きく塗り替える可能性すらあるとも。 「人口減少が原因で日本国内でのアニメの消費額が低下していることは、以前から指摘されています。そのため海外へ輸出することは当然の流れ。京アニの事件は、人気商品の工場が失われて生産再開のめどが立っていないのと同じ状況です」(アニメ業界関係者)  かつて「クールジャパン」という言葉が流行し、世界でウケるアニメは日本でしか制作できないという幻想があった。しかし、現在は状況が違う。とりわけ中国では、中国で制作され現地でしか放送していない高品質なアニメが量産中だ。京アニの抜けた穴は中国アニメが埋めると業界では囁かれているという。 「昨年東映アニメーションは年商500億円を突破していますが、京アニは約23億円。確かに京アニの質は高くファンも多いのですが、会社の規模は地方の中小企業レベル。再建に試行錯誤しているうちに、膨大な人口と資本を抱える中国にその座を奪われる可能性もある。この事件、日本アニメ界にとって本当に大きな痛手になりかねないんです」(同)  何十年か後、京アニの事件が日本アニメ衰退の始まりだったと振り返る日がくるのだろうか。 取材・文/野中ツトム(清談社) 森田光貴 写真/朝日新聞社
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