チケットを狙ってみたい穴場?パラ版バレーボールの知られざる魅力
~第72回~
フモフモ編集長と申します。僕は普段、スポーツ観戦記をつづった「スポーツ見るもの語る者~フモフモコラム」というブログを運営しているスポーツ好きブロガーです。2012年のロンドン五輪の際には『自由すぎるオリンピック観戦術』なる著書を刊行するなど、知っている人は知っている(※知らない人は知らない)存在です。今回は日刊SPA!にお邪魔しまして、新たなスポーツ観戦の旅に出ることにしました。
テニスと卓球はほとんど同じ競技です。ラケットでボールを打ち、ワンバウンドで返せなければ負け。ただ、テニスはコートで、卓球はテーブルで行なうことでほとんど同じ内容でありながら競技性はまったく違うものとなりました。大きな違いは一瞬のスピード。卓球の小さな台と軽いボールは、高速のラリーを生み出し、一瞬の反応が勝負をわけるスピーディーな競技として卓球を特徴づけました。
同じように、「内容はほとんど同じだけど違う競技性」へと進化した競技がパラリンピックにあります。それがシッティングバレーボール。足が不自由な人も参加できる、座って行なうバレーボールです。今回はそのシッティングバレーの物見遊山のため、今年で22回目を迎える夏の恒例行事だという「夏パラバレーボール選手権大会」へと向かいました。
場内では野村ホールディングスさんのブースが設置され、観覧客を迎え入れています。野村ホールディングスさんは東京2020大会のゴールドパートナーでもあるのですが、ゴールドパートナーになったあとで「ウチの社内にも誰か選手はおらんのか?」と調べたところ、たまたま社員のひとりに北京・ロンドンパラリンピックのシッティングバレー日本代表であった金木絵美さんがいたそうで、その縁からシッティングバレー、そしてバレーボールを特に支援するようになったのだとか。
個人的に巡っているパラリンピック関連イベントでも「野村ホールディングスがシッティングバレーの出展をしている」のはおなじみの光景。イベントでシッティングバレーを体験すると野村ホールディングスから粗品がもらえるというのは、僕のなかにも刷り込まれており、今では「今日は野村は何をくれるかな?」ともらう気マンマンで探しに行くようになったほど。そんな小さな積み重ねはこの日も健在。野村ブースで記念撮影をすると、夏にありがたいウェットティッシュやステッカーをもらえました。
国内でのシッティングバレーの大会を見たとき、すごく驚かれるだろうことがひとつあります。パラリンピックではもちろん足に不自由がある人が集って戦うわけですが、国内大会においては全日本選手権を含めて「不自由のある人も、ない人も混ざって」出場する混成チームでの戦いなのです。なので、さっきまで座ってバレーをしていた選手たちが、試合が終わった途端にスッと立ってあいさつを始めたりもします。むしろ、ほとんどの選手が足に不自由のないタイプ。その意味では「パラリンピックっぽさ」はあまりありません。
試合に関しても、いわゆる「パラリンピックっぽさ」…動きに不自由や制限は見受けられません。そりゃ、もともと不自由のない選手も加わっているのですから当然なのですが、それ以上に、車いすや義足を使うわけでもなくただただ全員が座っているだけなので、見た目の印象で違いが見えづらいのです。たとえば国内大会の試合のひとコマを見せられて、「誰が不自由でしょうか?」と聞かれてもパッと見では当てられないんじゃないでしょうか。
ルール面ではほぼ完全にバレーボールです。コートのサイズは小さく、「サーブをブロックしていい」「ジャンプしちゃダメ(お尻をコートにつけていること)」といった若干のアレンジはありますが、バレーボールがわかるならそのままの知識で何の問題もなく観戦できます。「ミニバレー」と呼んでもいいくらい同じです。
チームによっては「リベロ」もいますし、リードブロックを中心とした守備体型などバレーボールの戦術的な動きも持ち込んでいます。座ったままのプレーなので移動はなるべく避けたいのかと思いきや、「プレー開始後すぐに、背の高いセンタープレーヤーがコートの中央に戻る」といったインドアのバレーボールと同じような配置調整までしているほど。ときには後衛から前衛にセッターが戻ってくるみたいな動きまで見せてきます。
「む……?」
「これはひょっとして……」
「足に不自由がある人の特別な競技ではなく」
「地域のおっちゃんおばちゃんが集った」
「ミニバレーの大会なのか……?」
ミニバレーだと思って見ると、「バレーの格下」ということではなくテニスと卓球のような関係としての別個の競技性も見えてきます。シッティングバレーはとにかくラリーが早い。コートが小さいぶんボールを打ち込む距離も短く、選手に与えられる時間は短くなります。一瞬の反応で拾って、ポンポン返していきます。まるで全部が速攻のような忙しさ。
インドアのバレーボールのような「レシーブ、トス、アタック」の攻撃を組み立てるチャンスは作りづらい代わりに、ワンあるいはツーでどんどん攻撃していく積極性があり、やたらとテンポが速い。テンポの速さのなかで誰にいつチャンスがくるかわからないので、全員がセッターであり、全員がスパイカーであるというのも、ポジションごとの分業が固定化しているバレーボールとは違った意外性があります。ときには相手サーブをダイレクトで返球するところから始まり、テニスのような「1球ずつの応酬でラリー」する場面さえあるというのは、バレーボールを見慣れた人ほど新鮮で面白がれるものでしょう。
そうしたテンポの速い展開のために、座ってするバレーとは言ってもスピーディーな移動が要求されるのも特徴的。座っているから「なるべく動かない」ようにプレーするのではなく、逆に座っているからこそ頑張って移動しないといけないのがシッティングバレー。シッティングバレーでは基本的に臀部を浮かすことが禁じられています。レシーブのときに一瞬浮くことは審判の裁量で許される決まりですが、立ち上がったり歩いたりすることはもちろんダメです。「ジャンプで飛び込む」というある意味での横着もできませんので、勝利のためには少しでも早く、ボールに届くところまで移動するしかないのです。
そのとき、やたらと動きが早い選手がいるなぁ……と思って見てみると、普段は義足をつけているであろう足を切断するなどした選手だったりするのです。そうした選手はシッティングバレーに懸けているという側面もあるでしょうが、それ以上に、単純に動きがスムーズです。
よくよく見ると、ないほうの足を「たたむ」とか「曲げる」とか「片づける」とかする手間がなく、ないほうの足をソリのように使い、スーッと滑るように移動していきます。どの向きに動くときも「こっちは滑るほうの足」「こっちは推進力の足」とハッキリしているぶんフォームにも淀みがありません。
パラ版バレーボール「シッティングバレーボール」とは?
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