「逃げ切り世代」と呼ばれたはずの50代の足元が揺らぎ始めている。今年6月、損保ジャパン日本興亜が介護事業を手がけるグループ企業への配置転換も含めた4000人の人員削減を発表し衝撃が走った。50代に今、一体何が起ころうとしているのか? 会社に嫌われる50代社員500人アンケートを通じて、彼らを取り巻く、逃げ切れないシビアな現実に迫る。その先に待ち受ける未来とは?

真面目に働いているだけでは、50代は評価も給与も下がる一方
経営陣や現役世代からシビアな目を向けられている50代。では、当の本人たちは、どんな思いで日々の職場を過ごしているのか?「会社に嫌われている」と感じている50代社員500人にアンケートを実施した。
Q1.現在の役職は何ですか?
・部長級 46人
・課長級 118人
・主任級 114人
・一般社員 220人
・役員級 2人
(対象:40代までに比べて会社からの評価が下がったと感じている50代男性会社員500人)
まず、Q1からは彼らの約7割が課長未満にとどまっていることが判明。だが、これはミニマムで、今後はますますその割合が増えると人事ジャーナリストの溝上憲文氏は語る。
「ここ数年、大企業でも降格人事が普通に行われるようになっています。約3割の課長以上も一瞬の油断で役職を解かれます」
Q2.現在の年収に満足していますか?
・満足 8人
・やや満足 34人
・普通 131人
・やや不満 158人
・不満 169人
続いてQ2では、現在の年収に「満足」(8人)、「やや満足」(34人)と回答した人は全体の1割にも満たなかった。裏を返せば9割以上が“給与以上の働きをしている”という自負をのぞかせるが「単なる過大評価」と組織コンサルタントの堀公俊氏は一蹴。
「能力が低い人ほど客観的に物事を認識する“メタ認知”が苦手とされます。そのため、自己と他者の能力差を正確に把握できず、無能な人ほど自己評価が高くなる傾向が表れる。これを“ダニング=クルーガー効果”と呼びます」
経営学者の山本寛氏も「自己評価は他者評価の2割増し。過去の成功体験で得た武器が、今では錆びついた刀になっていることに気づいていない」と手厳しい。
では、このように過大評価気味の50代社員は、何をきっかけに会社から嫌われていると感じるのか?
Q3.なぜ冷遇されていると感じるのか?
(当てはまるもの3つまで回答)
・給与が大きく下がった 213人
・役職や権限がはく奪された 121人
・定年が近いので仕方ない 111人
・これまでのキャリアとは無縁の部署に異動 72人
・社内でお荷物扱いされるようになった 60人
・管理職だが部下がいない 42人
Q3では、「給与が大きく下がった」(213人)を筆頭に、「役職や権限がはく奪された」(121人)や「キャリアとは無縁の部署に異動」(72人)など人事的要因が続くが、これも「当人たちが感じているほど冷遇ではない」と溝上氏は続ける。
「年功序列が崩壊し、ここ数年で年齢給が50歳手前で打ち止めの企業が増加。さらに、役職定年や降格、左遷などで役割給とボーナスが削られる。これは当たり前の話で、今の50代には能力以上に給与を支払っている状態なので、“真面目に働く”だけでは、50代以降は評価が下がるのです」
つまり、給与に見合っていないという会社からのメッセージ。しかし、それを冷遇と感じれば、職場での不安が募っていく(Q4)。
Q4.現在の職場での不安や悩みは?
(当てはまるもの3つまで回答)
・仕事にまったくやりがいがない 202人
・給料が下げられる 190人
・体力や精神的にキツい仕事に回される 98人
・突然のリストラ 74人
・周囲から見捨てられる 70人
・職場に居場所がない 48人
特に、「仕事にまったくやりがいがない」(202人)が4割以上と、モチベーションの低下は深刻だ。
「健康寿命が延び、昔の50代よりも活力はあるのに、活躍の場がない。そのギャップは大きく、心が折れます」(堀氏)
だが、会社が優先すべきは有能な若手。心が折れた50代に、救いの手は差し伸べられない。