更新日:2019年09月25日 17:18
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ZOZO前社長・前澤氏への、過剰な批判も擁護も寒々しい理由/鈴木涼美


裏声で歌う君が代

 嫌味なほど札束が似合うのに、どこかお金なんてカンケーないと思っていそうで、芝居臭さと人間臭さが混在していて、圧倒的な実績があって、茶目っ気と可愛げもあって、ぶっちゃけトークもできるけど、喋りすぎな感じもない。皆様が誰を想像したかは知らんけど、ローランドのことだ。  東城誠としてホス狂いの中ではカッコ笑付きでそれなりの知名度があった彼が、突如ローランドという突拍子もない名前に改名し、整形しすぎな見た目の異様さに名前の異様さまで加わった時、私たちはカッコ笑がカッコ爆になった、程度の認識しかなかった。  彼の言う、「世の中には、2種類の男しかいない。俺か、俺以外か」とか、社員旅行で一人だけ空気読まずにプール付きスイートに泊まってたとか、歌舞伎町から出たこともないホストが多い中で欧州に撮影に行くとか、芝居がかった大げさな振る舞いを、暴力と借金とクスリの匂いしかしない古き良きホストが好きなオネーサンたちは、冷笑していた。  それはどこぞの社長が月旅行を計画したり、女優と豪華なジェットで出かけたり、古き良きマヌカンと客の関係を根本から壊したり、買い物を神聖視する女子を笑うような全身タイツを開発したりすることを冷笑していた古き良き企業人たちとリンクする。  しかしローランドは歌舞伎町の外の人に「知っているホストは?」と聞いた時に名前があがる唯一無二の存在となった。売り上げでも快挙を見せつけ、数多のメディア露出で数々の銭ゲバ迷言にも筋の通った論理があると判明、あの見た目も見慣れるとアリなんじゃないかという気にすらさせる。  ただ、やはり合理性とは相反する泥臭いホストの礼節を愛したオネーサンたちは、彼をいまいち認めたくない。彼の存在は、古き良きホストの流儀を揺るがすような気がするからだ。  だから多くのホスト客が彼を批判したり嘲笑したりするのだが、いまいち本質をつかずに空振りに終わる。どれも「気にくわない」に立脚したものだからで、そんな脇の甘い悪口を肥やしに、彼はさらに肥大する。

「好きじゃない」と「悪」を混同する人たち

 人の好き嫌いというのはライフコース的な意味でもソーシャルな意味でも重要だが、近年の報道や個人的な言論活動を見ていると、「好き」と「正しい」を、「好きじゃない」と「悪」をあまりに露骨に混同する者が増えたように思う。本来は、好き以上に強固なのは「好きじゃないけど認めざるを得ない」あるいは「好きだけど批判せざるを得ない」という状態で、その状態を自分の外に多く作ることのほうが、結果的に自分が信じたい価値や愛する伝統を守れるはずなのだ。  日韓問題で「好きじゃない」と「悪」をあまりに悪質に混同した週刊誌が窮地に立たされている構図を見てもそれは明らかだし、件の社長が時価総額7000億円超まで育てた企業をさらりと売り抜けた姿を無理やり批判する声や熱狂的に擁護する声が同時に寒々しいのもそのせいだ。  気にくわないものを愛さずとも、信じる価値観を否定せずとも、ローランド的なものと共存する道はある。ひとまずは持ち込まれた異様なものを認めるのだ、裏声で。 ※週刊SPA!9月24日発売号より
’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

おじさんメモリアル

哀しき男たちの欲望とニッポンの20年。巻末に高橋源一郎氏との対談を収録

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