更新日:2023年05月18日 16:21
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この世に不要なものなどない。陳腐なAVの脚本でさえも尊い――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第77話>

口喧嘩が弱い若者におっさんがディベート訓練を開始

「わりいわりい、遅れたわ」  そこに大幅に遅刻して南山がやってきた。相変わらず遅刻癖は治らないらしい。見るとその後ろに若い青年を連れていた。 「職場の後輩なんだけど出がけに深刻な顔で相談があるって言うからさ、それじゃあ経験豊富な諸先輩方に相談しろって連れてきたわけよ」 「よろしくお願いします。深田って言います」  青年は礼儀正しく頭を下げた。 「で、何に悩んでるわけ? ピンサロ嬢に恋したとか?」  山藤はハイボールを受け取りながらそう言った。僕だけは山藤が24歳の時にピンサロ嬢に恋したのを知っているが、知らないふりをしておいた。  深田君は首を横に振った。 「そうじゃないんです。実は僕の彼女、めちゃくちゃ口が達者で、喧嘩になると必ず言い負かされるんです。それで、口喧嘩に負けないためにはどうしたらいいかと、口が達者な南山さんに相談したんです」  そんなもん、喧嘩しないようにしろよ、なに言い負かそうとしてんだよ、と思うけれども言わないでおいた。別にそこまで親身になって考えることじゃないからだ。 「ディベートの訓練をした方がいいかもな」 「そうだな、じゃあやってみるか」  みんなそうだったようで、かなり適当なアドバイスが飛び出した。適当にお題を出して議論をしてみようという試みだ。 「ペットにするなら犬か猫か」 「スマホを買うならアンドロイドかアイフォンか」 「一人しか命を救えないとしたら母親か恋人か」 「答えは沈黙」  こんなやり取りが続いた。そこで思ったのだけど、深田青年、その主張がどっちつかずなのだ。 「犬は賢いからさ、やっぱ犬だよ」 「猫が最高だよ、ゴロゴロいうんだぜ」  などと僕らが意見を出している横で「どっちもかわいいですからね、決められないですね。実家には両方いますし」と煮え切らないことを言う。僕らとしても本当に「犬」「猫」と割り切っているわけではなく、議論をするためにそういう役割を演じているだけなのに、曖昧なことを言う。  たぶんそれが深田青年の良いところなのだと思うけど、たぶん、そういう優柔不断なところが彼女との喧嘩を誘発しているじゃないだろうか。言い負かす以前にそういうところを修正すべきだ。そう思ったけど言わないでおいた。そこまで親身じゃないからだ。
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なぜか3P不要論にまで話が発展
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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