「ほら、舞台とか演劇観に行くとカーテンコールってあるじゃん、出演者全員出てきて挨拶して。あれだよ。だいたい絡み1と絡み2の男優が出てきて女優とで3Pするでしょ、あれはカーテンコールなんだよ。出演者総出演のカーテンコール」 　僕の擁護もさらに苦しいステージに移行した。 「ふざけるな、そんなんだからお前はハチマキに安全ピンつけるんだよ。3Pは必要ない」 「3Pを滅ぼしたい、この世から滅ぼしたい」 「3Pは悪」 　もうわけのわからないことになっていた。結局、深田君は3Pを憎むあまりリミットブレイクしてしまっていた。 「その勢いで彼女に言ってやれ勝てるぞ！」 　山藤が煽る。 「いけるいける！　やったれ」 　南山も煽る。 「言ってやりますよ！　3Pは必要ないって彼女に言ってやりますとも！」 　深田青年は吠えた。 　飲み会を終え、飲み屋街のネオンを眺める。南山と深田青年は代行運転で帰った。山藤と二人、ささやかな喧騒の中に残された。 「すまんな、ちょっと言い過ぎたな。別に3Pが憎かったわけじゃないんだ。24歳の時に好きだったピンサロ嬢が俺の知人たちと3Pしたって聞いて失恋したんだ、俺。その時のこと思い出しちゃってさ。だからごめん」 「いや、別に俺も本気で3P好きなわけじゃないし」 　こいつはこういう優しいところがあるヤツだ。思えばあの日、安全ピンで繋ぎ留められ、誰も貰い手がなかったハチマキの切れ端を「せっかくだから」と貰ってくれたのもこいつだった。 　バカなこいつらも、優しいこいつらも、アホとしか思えない議論も、そして衰退していくこの街も、きっと不必要なんてことはないのだろう。きっとエロビデオの3Pも誰かにとって必要なのだろう。 「この世に不必要なものなんてない。みんな意味と役割がある」 　また山藤のセリフが頭の中に流れた。 「さあて、東京にかえっても頑張るか」 　まばらに瞬くネオンは、まるで誰かに必要とされるのを待つように、少し冷たい空気を照らしていた。 ロゴ・イラスト／マミヤ狂四郎（@mamiyak46）テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」（扶桑社刊）が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である　読みたくなる文章の書き方29の掟（アスコム）」が発売。twitter（@pato_numeri）