国は夜の街にだいじょぶだぁと救いの手を差し伸べてはくれない/鈴木涼美
小池百合子都知事は3月30日の緊急記者会見で、カラオケやライブハウス、バーやナイトクラブへの来店自粛を求め、続く4月3日の定例記者会見でも、引き続き不要不急の外出自粛、平日の在宅勤務を呼びかけた。そして7日、7都道府県に緊急事態宣言が出される
最近ではお金を騙し取ってたストリップダンサーが最終的に捕まる『ハスラーズ』もそうだし、古くは調子よく稼いでいたマフィア仲間が殺されたり捕まったりしていく『グッドフェローズ』もそうだし、うまいことやっておいしい思いをしていたヤツが痛い目をみる、というのはお決まりの展開で、お決まりということはみんなそういう展開は好物ということでもある。
で、そういう展開の前段として、お酒飲んでセックスしてワッショイワッショイ盛り上がってるシーンは必須なんである。
緑の魔女こと東京都知事が新型コロナウイルス感染の対策として、ナイトクラブやバーなどを例示した上で、夜の外出自粛を呼びかけた。
お酒飲んでワッショイなんていういかにも不要不急の行為は自粛を呼び掛けやすいし、呼び掛けられたほうもソウヨネコンナ時ダシネなんて思いやすいし、会社やバイト先を例示した昼の外出自粛を呼び掛けた場合に比べて「それくらいは我慢できるでしょ」感があるし、客として歓楽街を訪れる人々からすれば無駄な出費が抑えられるのでお国に「だったら責任とれ」「飲みにいけない分の埋め合わせしろ」と詰め寄らないだろう。
もちろんここでミソなのは客のほうに自粛を呼びかけていることで、そこで日銭を稼ぐ従業員や稼がせている経営者に向けて何か強制をしているわけでもなく、彼らの自主性は認められた上で、お客も自粛するだろうし、感染が拡大したら大変だし、と「自分らで勝手に」店を閉めたり、大幅に縮小営業したりする。
バンス(前借り)は消え、日銭は消え、稼ぎは消える。(4月3日の時点で都は減収分の一部を支援する方針との報道はあったが)勝手に自粛してるんだからお国が面倒をみる必要がないし、普段うまいこと法の隙間をぬって、騒いで派手な生活して、国民の義務なんか結構無視している彼ら彼女らは割と謙虚で、助けてなんて言ったら自業自得とか自己責任とか因果応報とか言われることをわきまえる。
ワッショイワッショイ騒いでいた彼らがショボンとなる瞬間を見たい大衆は、苦境の彼らの実情を報じる番組にかじりつく。
今のところ、ギリギリの手を差し伸べているのは国ではない。お決まりの展開にちょっといい気味と思いつつ心配なフリをするワイドショーでもない。さらに皮肉を言えば、「弱者が弱者のまま幸福」になり女性を性的搾取や不遇から救えるはずのフェミニズムでもない。
「辞められちゃ困るからとりあえず店の従業員寮に差し入れしてる」とか「時給の子の給料出すために何とか店開ける」とか「オンラインチャットでもやってくれたら有料で利用するよ」と言っているのは、時に嫌なやり方で彼女たちを搾取し、女をモノ化し、性を商品化してきた現場の人間や、日常的に彼女たちを消費してきた人間たちである。
だからって彼らの存在を正当化してくれなんて言えないが、その汚れ役を、小さい布マスクをパフォーマティブにつけて見せた国のトップらが買って出てくれないのは確かだし、別の場所でトップにのぼり詰めても街場で飲み続け、夜の街にだいじょぶだぁと言ってくれそうなその人を世界が失ったのも確かなのだ。
※週刊SPA!4月7日発売号より’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中
今日、お店休みます/鈴木涼美
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