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牧歌的な家庭像に基づく“世帯主への給付金一律支給”は、迷惑を超えた凶器/鈴木涼美

安倍首相が「全国民10万円一律給付」を改めて表明した政府与党政策懇談会後、記者の質問に答える公明党・山口那津男代表(4月20日)。男女共同参画局は、配偶者からの暴力を理由に避難している人は世帯主でなくとも給付金を受け取ることができるとしているが、「配偶者暴力防止法に基づく保護命令を受けている」などの条件を満たしていなければならず、世帯ごと給付を基本とする政策には依然疑問が残る。 山口那津男代表

グレイテスト放漫/鈴木涼美

 シュークリームの差し入れもハラスメントなんていわれる昨今だが、ハラスメントが妥当な語彙かは別として、きっと喜ぶだろうと思ってした行動が明後日の方向を向いて空回り、毒舌な若者たちに「マジ迷惑」と思われる無邪気な上司は結構いる。  よかれと思ってしたことが、謝罪を要求される際の忸怩たる思いはお察しするが、そういった行為の多くは「女は甘いものが好きなはず」「男はオッパイが好きなはず」という思い込みによって引き起こされるので、一度指摘しても、じゃあ今度はエクレアにしよう、次はおっパブじゃなくてソープに誘おう、などと再び見当外れに空回るため、マジ迷惑どころかほぼ凶器だ。  収入が激減した世帯に30万円、といういかにも現場が混乱しそうな方針から一転、野党や、公明党すら求めていた国民への10万円一律給付が決まった。大幅に打撃のあった事業者や人への救済策も練るべきだが、即座にとるべき対策としてはシンプルでわかりやすいほうが良いので、方針転換自体は評価する声も多い。  ただ、世帯主が全員分を一括で受け取る様式に、DV・虐待被害者や別居中の家庭などへの配慮がないと再び批判が集まり、総務省は「DVが原因で別居中のケースについては個別の対応を検討する」と説明する。  幼児らへの支給や、すでに支援金の手続きなどで混乱する自治体の窓口負担を考慮し、手続きを絞り、迅速に支給するという心持ちは間違いではないが、ここ一連の「何をやっても空回る」政権を見ると、彼らの持つ「世帯」のイメージがどうにも牧歌的なのだ。  平日夕方に突然発表された休校措置、性風俗業界の女性を除外しようとした子育て支援、首相の星野源動画、世帯を一単位とした給付金にまつわるエトセトラ。これらは、健康志向の強い社員に脂っこいシュークリームを差し入れるのと同じ思い込みの暴力が根底にある。  日本人の思考が欧米人に比べて性善説に因りがちだと指摘されることはあるが、家族は時々ぶつかっても和気藹々としていて非常事態には大黒柱の父親が皆を守るだろうとか、風俗嬢はお金を持っているうえにロクなことに使ってないだろうとか、首相の可愛い一面で皆ほっこりするだろうとか、DV家庭は皆ちゃんと別居できているだろうとか、性善説どころか脳味噌の代わりにシュークリームが詰まっているとしか思えない思い込みだ。 「家庭」「結婚」「親子」「世帯」といった言葉のイメージを払拭しない限り、弱いところに手が届く立案はできないし、思い込みで手続きを合理化する放漫はマジ迷惑というよりまさに凶器だ。  個人的にはマイナンバーカード普及(普及率は昨年末時点で15%に満たない)が進んでいれば公務員の作業を一部簡略化できた気がするので、何かと口が達者な割に自治体や国の事務的運営に非協力的な大衆にも放漫があったとは思う。  怠惰ではなく思想的に反対だという声もありそうだが、ではそうした制度を撤廃して思想的に納得いく政策を掲げるような対抗馬を検討せず、いまだに4割もの人が現政権を支持するのはいかがだろうと思う。盲目的なアベ応援もまた放漫でしかない。 写真/時事通信社 ※週刊SPA!4月28日発売号より’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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