人々がデマに走りやすくなるメカニズム

「東北の被害が深刻なのはわかります。でも茨城だってヒドい。なのに報道が少ないのは、東海村の原発も爆発しそうだからだと聞きました……」と話すのは、茨城県北部に住む男性(34歳)。ほかにも、県内ではさまざまなデマが飛び交っている。

「水戸では暴動が起きまくっているらしい。実際に、友達の友達が被害に遭ったと聞いた」

「菅首相が3月末に福島・茨城を訪れて、ほうれん草を食べるパフォーマンスをすると聞きました。農業関係者は死活問題ですから、切実に信じています」

 このように茨城県で多くのデマが生じることに関して、社会学者で阪神・淡路大震災時に現地調査を行った桜美林大学の佐藤恵准教授は次のように解説する。

「茨城県は関東広域圏で唯一、テレビの県域民間放送局がありません。ラジオはIBS(茨城放送)がありますが、県内でも聴きづらい地域がある。“メディアの死角”とも言える環境があるわけです。そうした地域では、情報不足から “自分たちは忘れられた存在”だと不安を感じ、デマを引き寄せる傾向があると言えます」

 現に茨城県では、「『テレビ茨城(ローカル局)をつくれ!』と市民が県庁に押し掛けた」というデマすら流れていたという。

 その一方で、被災地から離れた地域でもデマは蔓延している。

「ウチの近所で急に、『今日(3月15日)の14時半に津波が来る』という情報が流れて、飼っているネコを連れて高台に避難したんです。結局、なにもありませんでしたけど」(大分県・40代主婦)

「西日本の短期賃貸マンションはすべて東日本の人間によって満杯状態。九州地区まで全部埋まっている」(大阪府・35歳男性)

 佐藤氏が話す。

「災害時など“非日常な状況下”では特に不安が掻き立てられ、人々をデマに走らせやすくなる環境があります。デマという形で『心理的に最悪の事態を先取り』し、一種の奇妙な“安心感”を得ようとする傾向もあります」

◆損保が大量倒産?東電社長が自殺した?

 また、各業界内で広がっているデマも多い。生命保険業界では、

「損保が大量倒産するという話が流れた。今後、原発1基につき支払う保険金を見積もると約1000億円。さらに一般のビルや建物に支払わなければならない保険料を加えると、総額で軽く5000億円は超えるんじゃないか……」。酒販売業者では、「消毒液の代用品として、流通している焼酎や日本酒が被災地に持っていかれてるらしい」と、各業界ならではのデマも流れている。

 原発問題で批判を受けている東京電力も例に漏れず、「『社長は既に自殺している』とか、『作業服を着ていると外出時に襲われる』という話を聞きました……」(東電社員)と、神妙に話す。

 さらに都内の女子大生の間では、「公務員を装い、点検と称して一人暮らしを狙う強盗・強姦が都内で多発している」という話が発展。「○○ちゃんの友達も被害に遭った」と、“身近な友達の名前”に置き換えられ、それを鵜呑みにして「家に一人でいられないので、友人宅を泊まり歩いている」(都内在住の女子大生)という。

「現代のデマはコミュニケーションツールの多様化により、複数のルートで瞬時に“広範囲”に拡散されやすい。鵜呑みにせず、距離をとってとりあえず“批判的”に判断する力が必要です」(佐藤氏)

 未曾有の大災害に揺れる日本。誤情報の拡散を防ぐことも、「私たちにできる支援」の第一歩になる。

【佐藤 恵氏】
桜美林大学リベラルアーツ学群准教授。著書に『自立と支援の社会学/阪神大震災とボランティア』(東信堂)

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