渡部建がグルメと音楽を語ることへの違和感
文/椎名基樹
私は小さい頃から母親に「食べ物に対して執着を見せるな」とうるさく言われて育った。だから今でもSNSに食べ物の写真をアップすることに抵抗がある。
“グルメ王”の異名を取るタレントの渡部建は、隠れた名店を紹介するオンラインサロン『渡部建のとっておきの店、こっそり教えます』を主宰しており、定員の400人は既にいっぱいで、募集再開待ちの人が多数連なっているという(6/12現在は閲覧不可に)。食べ物への執着を露にするだけでなく、さらに商売までしているのか……。それにしても、テレビ界でも屈指の売れっ子が、こんなカルトじみたことまでして集金するって、もはや鬼だ。鬼ってる。
グルメを語るのもいい。しかしそれをするにはある程度の年齢を重ねなければ「様」にならない。単に美味しい店を知っているというだけでもその資格は無い。その人に「教養」や「経験」が感じられなければ、食べ物を語ってもみすぼらしいだけだ。例えばタモリだったら抵抗なく耳を傾けることができる。「タモリが愛する店50選」なんて本が出たら絶対買っちゃうな。
食通の大家と言えば池波正太郎だ。池波正太郎の著作に『男の作法』(新潮社)がある。池波が「寿司屋」「そば屋」「天ぷら屋」での振る舞い方などを「語り下ろし」それをまとめた本である。文庫本前書きで池波正太郎は書く。「忸怩たる思いがするのは『男の作法』と言うタイトルだ。私は、他人に作法を説けるような男では無い。(中略)どうか年寄りの戯言と思われ、読んでいただきたい。そうすれば、この本は、さほど、おもしろくないこともない」。
編集者に請われて、出版したものの新潮文庫のアーカイブに加わる段階になり、さすがに池波正太郎も照れくさく思ったらしい。それにしても「おもしろくないこともない」って(笑)。池波正太郎の可愛らしさが伝わってくる気がする。それに比べて『渡部建のとっておきの店、こっそり教えます』の可愛くないこと(笑)。件の池波正太郎の“はにかみ”を見てもわかるように、食通を気取る事は無粋に通じやすく、簡単に語るべきでテーマではない。
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1968年生まれ。構成作家。『電気グルーヴのオールナイトニッポン』をはじめ『ピエール瀧のしょんないTV』、週刊SPA!にて読者投稿コーナー『バカはサイレンで泣く』などを担当。近著は『オールナイトロング -私にとっての電気グルーヴのオールナイトニッポンとその時代』。Xアカウント @mo_shiina
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