更新日:2020年09月18日 18:44
エンタメ

ブームを巻き起こす音楽漫画の系譜。ヒップホップ漫画『少年イン・ザ・フッド』は!?

 日本の漫画コミックスの新刊発行点数は、2019年時点で1万2805点(『出版月報』2020年2月号より)にも上り、日本が漫画大国であることを表している。そのなかでも、この10年でジャンルとして定着したのが、“音楽漫画”だ。各漫画誌にはクラシック、ジャズ、バンドなどを題材にした音楽漫画が数多く連載され、週刊SPA!でも連載中のヒップホップを題材にした『少年イン・ザ・フッド』も、単行本1巻が9月2日の発売翌日には重版が決まり、上々のスタートを切った。  “音”を表現するのが難しい漫画において、なぜここまで“音楽漫画”が愛されるようになったのか。その経緯を、漫画家トークイベント「マンガのハナシ」を主催するジュンスズキ氏に聞いた。

“音楽漫画”愛される歴史

「ベートーベン、ショパンの伝記系はまた別として、音楽漫画の始祖といえるのは’58年に少女漫画誌『少女クラブ』で連載開始されたちばてつや先生『ママのバイオリン』と思います。タイトル通りに貧乏出身の少女が、ママのバイオリンを片手にプロを夢見る物語。この作品の登場以降、60~80年代の少女漫画の世界では“音楽ジャンル”のヒット作が次々登場しました。例えば、’69年にはトキワ荘の紅一点である水野英子先生による『ファイヤー!』、’75年には池田理代子先生の『オルフェウスの窓』、’80年にはくらもちふさこ先生の『いつもポケットにショパン』と続きます」  少女漫画の恋愛要素と“クラシック”は読者に夢を見させるための相性が良かったのも、その一因であろう。かたや男性漫画誌ではなかなかヒット作は生まれなかった音楽作品だが、80年代後半から一気に変化を見せ始めたとスズキ氏は続ける。 「キッカケは80年代当時の“バンドブーム”です。BOOWY、Xが大ブレイク。その流れでバンド漫画として’85年に上條淳士先生の『TO-Y』が大ヒット。蛭田達也先生の『コータローまかりとおる!』でもバンド編が描かれ、原作:佐木飛朗斗先生、作画:所十三先生の『疾風伝説 特攻の拓』でもライブシーンに大きくページが割かれるなど、バンド漫画が続々誕生。そして90年代後半は野外音楽フェスの誕生に触発される形で、ハロルド作石先生の『BECK』がヒット。ほかにも一色まこと先生の『ピアノの森』がアニメ化するほどヒット。女性漫画誌でも矢沢あい先生の『NANA-ナナ-』もアニメ化および実写化され、音楽漫画=売れるという構図が徐々にできあがっていきました」 『NANA-ナナ-』など音楽漫画発の実写映画、アニメのCDも発売されるなど、“メディアミックス”も成功したのも大きな要因であろう。そしてスズキ氏が「音楽漫画が市民権を得る決定打になった」と話すのは二ノ宮知子『のだめカンタービレ』(’01年)だ。 「クラシック音楽をテーマにしながら恋愛要素もあり、その素晴らしい内容でドラマ、映画化するなど社会現象になりました。『BECK』や『NANA-ナナ-』が音楽漫画を定着させ、『のだめ』がさらに裾野を広げた。音楽漫画が完全に市民権を得た、と言っていいでしょう。のだめ以降、『デトロイト・メタル・シティ』のギャグ路線、『けいおん!』など“ほのぼのバンド路線”など細分化したジャンルも次々受け入れられるようになっていきました」  漫画市場ですっかり定着した“音楽漫画”だが、現在新たな支流になりつつあるのが“ヒップホップ”だという。 「フリースタイルラップ番組がブームになり、この数年で10作近いヒップホップ漫画が出ています。ただ、なかなかヒップホップ好きに届かず、打ち切りも多いのが現状です。そのなかでもSPA!連載中の『少年イン・ザ・フッド』はヒットの可能性を秘めていると思います。ストーリーは96年と現在が交差して進行していくため、新旧ヒップホップカルチャーの解説本のような役割を果たしており、まず読み応えがある。さらに細かいコマ割のなかに、背景にチーチ&チョン似のキャラが潜んでいたり、帽子に人気ラップグループの“サイプレス・ヒル”のロゴが隠れていたり、ヒップホッパーが好きな“元ネタを掘る”行為も楽しめる。漫画好きではなく一般の“音楽好きにも響くと思います」 『少年イン・ザ・フッド』にも、社会現象が起きるほどのヒットを期待したい! ジュンスズキ氏 漫画家トークイベント「マンガのハナシ」主催者。コミックサイトを制作・運営をするWEB制作会社の社長でもある。@jun_suzuki
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