日本ではマイナースポーツも…
世界では人気競技であるハンドボールですが、日本ではマイナースポーツのひとつという立場。プロ野球やJリーグのような予算規模もメディアからのバックアップもありません。そんななかでも
「この会場はリモートマッチで」「この会場は制限つき有観客で」と状況に応じた細やかな対応をしながら、なるべく多くの試合で有観客での開催をしよう、可能な限りできることを増やしていこうとしてきたのはとても前向きで、まさに「コロナ禍に立ち向かう」という姿勢でした。
選手たちが世界の舞台で大きな成果を残したことも、ファイナルの舞台がこうしたにぎわいのなかで迎えられたことも、前向きに「コロナ禍に立ち向かってきた」からこそではないのかなと思います。リスクを回避することだけを考えるなら「ハンドボールは無理にやんなくてもいいか……」となってしまうところを、
自分たちのために、ファンのために、可能な限りやりつづけた。それが今このにぎわいにつながっているのだろうと思うのです。
なかなかのにぎわい
選手入場ではチームカラーのペンライトで盛り上げるコンサートのような楽しみ方も
日本一の栄冠を目指したファイナルが始まります!
日本一を決めるファイナルは、女子が北國銀行VSソニーセミコンダクタマニュファクチャリング、男子が豊田合成VSトヨタ車体という顔合わせに。女子は7連覇を目指す北國銀行が「圧倒」という内容。序盤こそソニーに勢いがあり一進一退の展開となりますが、北國銀行に複数の退場者が出た時間帯にもソニーは優位を築くことができなかったあたり、地力に差がありました。中盤以降は身長180センチという北國銀行の大型ピボット(PV)永田美香選手を中心にソニーを押し込み、北國銀行が着実に点差を広げていきます。終盤にはゴールキーパーを下げて全員攻撃を仕掛けるソニーに対して、ボールを奪った北國銀行が無人のゴールに追加点を叩き込む場面も。7連覇にふさわしい強さで北國銀行が日本一となりました。
女子日本代表「おりひめジャパン」にも名を連ねる北國銀行の大型ピボット・永田美香選手。頭ひとつ抜けて大きい!
男子は彗星ジャパンの一員でもある渡部仁選手が序盤に4連続得点をあげてトヨタ車体がリードを築き、前半終了間際にはこちらも彗星ジャパンのメンバーである吉野樹選手の連続得点を加えて、トヨタ車体が2点リードして折り返す展開に。しかし、初優勝を狙う豊田合成がリーグ戦1位の強さをじわじわと見せ始め、トヨタ車体を追い上げていきます。
後半に入ると、豊田合成のバラスケス選手の空を飛ぶような滞空時間からのゴールや、トヨタ車体のゴールキーパーが前に出ていた隙をついて決めたゴールなどで豊田合成が逆転。豊田合成はさらに、中央から豪快に決めた水町孝太郎選手のゴールや、攻守に渡ってトヨタ車体の前に立ちはだかった趙選手のゴールで試合を決定づけ、最終スコア28-24で豊田合成が勝利。初の日本一となりました。
東京五輪ではイケメンぶりが注目を集めそうなトヨタ車体の点取り屋・吉野樹選手
表彰式では金色のテープがドーンと舞う華やいだフィナーレに!
優勝賞金100万円を手に選手たちも大盛り上がりです
ハンドボールでは高い跳躍から決めるジャンプシュートが大きな見せ場ですが、試合においては豪快なシュートばかりが飛び交うわけではありません。バレーやバスケではジャンプの頂点が主な勝負所となりますが、
ハンドボールでは跳んでから地面に落ちるまでに長い駆け引きがあります。ジャンプの頂点でシュートを撃つように見せかけて撃たず、地面スレスレまで落ちてから放つようなシュートのほうが逆に効果的という場面も。
単純に真上に跳ぶのではなく、斜め方向に跳んで、高さと位置が動いていくどのタイミングでシュートを放つのか。そこまでにどんな動きでゴールキーパーと駆け引きをし、優位なタイミングを見つけ出すのか。
滞空時間の全部を使って「粘っていく」ようなところに醍醐味があります。跳んだ直後がダメなら落ちるギリギリのタイミングで。
最初に狙ったコースがダメならフェイントをかけて別のコースへ。それはまさにコロナ禍の乗り越え方のようなものです。
一瞬一瞬変わる状況を見つめ、与えられた機会をフルに使って最善を尽くすような、派手なだけではないたくましさと粘り強さがあるプレーです。
自国開催の五輪という夢の舞台がきっとあるものと信じて、できることを積み重ねている日本ハンドボール界と選手たち。4月1日には五輪本番での対戦相手も決まりました。まだまだ
情勢は予断を許しませんが、地面に落ちるギリギリまで粘って、コロナ禍のなかでも懸命につないできた選手たちの努力が、夢の舞台までつながるように祈ります。日本一を決める戦いが素晴らしいにぎわいのなかでできたのですから、世界一を決める戦いだってできる。本番と同じ場所で、決意を新たにするような観戦となりました。
高い跳躍からの豪快なシュートもあれば
地面に落ちるギリギリからの粘り強いシュートもある
東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の橋本聖子氏もこの試合を観戦!上々の「テスト」だったのではないでしょうか