更新日:2022年02月10日 08:59
エンタメ

「クサいものにはどんどん蓋をしていく」作家・西村賢太と山田ルイ53世が語る、中年の生き方

可視化よりも不可視化

山田ルイ53世氏

山田ルイ53世氏

西村:と、そんな達観したように言っていますが、達観どころか、結構エゴサーチとかもしてしまうんですよ。 山田:本当ですか!? まったくそんなふうに見えませんでした。 西村:でね、こんな感想を言う人がいる。「作家だったら自分のことばかり書かずに、もっと世の中や他人の人生を書け」と。私小説看板の書き手には的外れすぎることを、悪意なのかなんなのか、普通に書き込む手合いが案外に多いですなあ。 山田:まったく見当違いのことを自信満々に言い切る人、いらっしゃいますね。僕はエゴサーチして、「嫌なことが書いてありそうやな」と思ったら、すぐ見ないようにします。  今、何でも「可視化」と言われていますが、中年にとっては「不可視化」も大事なんじゃないかと思います。クサいものには、どんどん蓋をしていく。だってクサいから(笑)。昔は、「なにくそ!」と怒りや妬み嫉みをガソリンにしていましたが、中年になると燃費が悪すぎてしんどい。 「私小説以外を書け」と言ってきた人って、おそらく中年かそれより上の世代の人だと思うのですが、めちゃくちゃ燃費の悪い生き方をしていると思います。もうもうと黒煙が立ち込めて、自分自身の姿が見えないくらい。

忘却力こそ中年の武器

西村:僕自身はSNSはまったくやりませんが、スマホで育った世代でもないのに、スマホ上でエキサイトしている中高年たちを見ると、正直、気味が悪い。偏った価値観を押しつける人が多すぎるし、「ネットの声」を変に重用する人も多すぎます。どちらも、みっともない。 山田:結局、「どっちについたら勝ち目あるか? マウント取れるか?」みたいな部分があって、「ほんとにご自身がそう思ってるの?」と。 西村:自分自身と向き合うのも精いっぱいなのに、他人の勝手な価値観に影響されるのなんてまっぴらです。僕は自分の書いた小説すら、書き終わると同時に忘れ去るくらいですから。「もっといい作品にできたはずなのに」などとネガティブな感情が湧くでしょう。もう、その時点で辛い。 山田:自分も現場が終わったら、一目散に忘れます(笑)。若い頃は「もっと爪痕残さなアカンかったのに!」と悔しい思いをエネルギーにしていましたが、中年になると耐えられない。「忘却力」こそが、中年の武器です。
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ハッピーエンドな不老不死なんてない
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