小此木氏の出馬は菅首相と藤木会長の関係修復に貢献、山中氏支援の“切り崩し効果”も
林文子市長のカジノ誘致表明に対して緊急記者会見を開き、「命をかけて反対する」と表明した藤木幸夫会長
小此木氏の出馬は、先の藤木氏(現在は「ハーバーリゾート協会」会長)の切り崩しや菅首相との関係修復にも効果的だったようだ。
林市長のカジノ誘致表明に対して「命を張ってでも反対する」「(カジノ推進の)ハードパワーと闘う」と啖呵を切った藤木氏は反カジノ陣営の象徴的人物として注目されたが、小此木氏とは深い関係にある。小此木氏の父親の彦三郎・元建設大臣は藤木氏の盟友で、「藤木家と小此木家は三代にわたる付き合い」(小此木氏)なのだ。
その彦三郎氏の秘書を務めていたのが菅首相。出馬会見で小此木氏は「菅総理と45年以上、私が小学校3年生ぐらいからの付き合いになるから、兄弟分みたいなもの」と語っていた。横浜へのカジノ誘致をめぐっては、推進派の菅首相に対して藤木氏は反対と正反対の立場だった。「横浜へのカジノ誘致取り止め」を掲げた小此木氏の出馬は、「菅首相と藤木氏の関係改善が狙い」と見られているのはこのためだ。
その効果は、“藤木節”から菅首相批判が消えたことにはっきりと見て取れた。これまで藤木氏は、国の意向をうけてカジノ推進をしていた菅官房長官(当時)を「(トランプ大統領の腰巾着である)安倍首相の腰巾着」と一刀両断していた。5月25日に開かれた反カジノ市長誕生を目指す「横浜未来構想会議」の発足集会でも藤木氏は、秋田出身の菅首相を「旅人」と表して「旅人に(横浜の未来の)絵を描かれたら困るだろう」と批判したこともあった。
そして、7 月17日には山中氏の事務所開きで藤木氏は「山中さんにしっかりお願いする」と公の場で支援表明。山中氏の選対会議の名誉議長にも藤木氏は就任していた。
しかし小此木氏出馬の約1か月半後の8月3日、外国人特派員協会での会見で藤木氏は豹変していた。菅政権(首相)の評価を問われると、世襲議員だらけの政界を一刀両断にしながら叩き上げの菅首相を「異色」「草履取りが総理大臣になった」と持ち上げたのだ。
こうして菅首相への批判的発言が消え失せる一方、「カジノは小さな問題」「横浜港以外ならどこでもやってください」とも述べ、「(横浜市長選で)当選するのは(小此木)八郎でしょう」と、自身が推薦する山中氏ではなく、その対抗馬が勝つと予測したのだ。
小此木氏の出馬は、横浜へのカジノ誘致をめぐって対立してきた菅首相と藤木氏の関係を修復した。そして、藤木氏による山中氏支援を表面的(形式的)なものにトーンダウンさせる“切り崩し効果”もあったように見えるのだ。
「カジノ反対」を一大争点にして野党統一候補として出馬した山中氏(中央)だったが、カジノ反対を主張する候補が乱立した今、それ以外の争点も注目されてきている
横浜市政ウォッチャーもこう話す。
「藤木幸夫氏には二人の息子がいて、それぞれが山中氏担当と小此木氏担当をしているようです。どちらが当選してもいいように、両候補に保険をかけているともいえます。港湾荷役業を本業とする商売人としては、当然の対応なのでしょうが」
しかし告示日(8月8日)に藤木氏は一転して、第一声をあげた山中候補の隣でマイクを握って「山中さんしかいない」「この人に横浜の将来をお願いする」と支持を呼びかけた。
そこで筆者は藤木氏を直撃し、その真意を聞いてみた。
筆者:「小此木さんが勝つだろう」と会見でおっしゃっていましたが。
藤木:そう言っておかないと仕方がないでしょう。
筆者:(小此木陣営を)油断させるつもりなのですか。
藤木:そうそう。選挙のたびに相手を褒めるのが俺のやり方だったのよ。それで40年間、やって来たんだよ。
相手陣営を油断させる戦術だというのだ。しかし、小此木氏当選を容認する藤木氏の発言により、カジノ誘致の是非に加えて新たな争点が浮き彫りになってきた。それは、「菅首相直系市長による市政を続けるのか」、それとも「脱・菅支配の非自民系市長による市政を選ぶのか」ということだ。
自民党と同じく自主投票を決めた公明党も、神奈川選挙区の三浦信祐参院議員が8月1日、小此木氏を支援する街頭演説会を開いて支持を訴えた。小此木氏は、実質的な自公推薦を受けているのに近い支援態勢になってきている。
ジャーナリスト。『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数
記事一覧へ
|
『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』
選挙や五輪を優先して、コロナ感染爆発を招いた小池百合子東京都知事。
都民のためでも、国民のためでもない、すべては「自分ファースト」だ!
|