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ロシアのウクライナ侵略が日本に与える深刻な影響。他人事ではない3つの理由

国際情勢を的確に分析するための情報源

米中と経済安保 江崎氏は「日本が選択を誤らないためにも、国際情勢は的確に分析しないといけない。その分析手法として私が政治の場において重視してきたのが『公刊情報』だ」と語る。公刊情報とは、政府や政党などが公開した政府見解、政党の公式見解などのこと。 「公刊情報は政府や政党などが公式に発表したものであり、マスコミ報道に比べれば、その信頼性はかなり高い。例えば『マスコミ報道によれば、日本政府はこの問題についてこう考えている』という言い方よりも、『政府の公式サイトに掲載されている声明によれば』という言い方のほうが数段と信頼性が増しますよね。  したがって国際政治、国内政治を考えるために私は、『公刊情報を確認・分析すること』を提唱しています。政府の公式見解を踏まえなければ、国際政治について外国の専門家たちとまともな議論ができないからです」  インテリジェンス(国際情勢などに関する情報収集・分析)の基本も、政府の公式見解を正確に丁寧に読み解くことが求められる。 「しかもそのインテリジェンスは、自国の国家安全保障戦略の策定に資するものでなければなりません。言い換えれば出所不明で、根拠も曖昧な『憶測』であれこれと想像をめぐらし、自分に都合のいいように話を繋ぎ合わせることは、インテリジェンス活動とは呼びません。  国家の命運を左右する国家戦略はしっかりとした事実や根拠に基づいて論じられ、組み立てられるべきです。個人の勝手な思い込みで論じ、状況証拠だけで結論を出すようなことは、インテリジェンスから最も遠い言動。そこでインテリジェンス活動の基本に則り、米国の『国家安全保障戦略』や、自民党の報告書などの公刊情報を分析することで日本の経済安全保障政策を論じなければなりません」

ロシアの『脅威』に対する認識を欧州と共有できているか

 では、’20年12月に公開された自民党新国際秩序創造戦略本部による提言「『経済安全保障戦略策定』に向けて」では、ロシアに対してどのように分析しているのか。 ===== ロシアも、国家経済の競争力の強化を国家安全保障上の利益の一つとして掲げており、その下で、エネルギー安全保障や技術安全保障の強化、ハイテク技術の育成、海外依存の低減、中小企業の発展等の目標を掲げている。また、特にネット世界における自律性の確保の観点から、インターネット主権法を制定し(未施行)、有事の際には国内ネットワークを外部から切り離せるよう準備が進められている。国際社会のシーレーンや資源の観点からますます重要度を増すと思われる北極海への自国の影響力を高める試みも今後強化されていくものとも見られる。 =====  自民党のこの「提言」に対し、江崎氏はこう分析する。 「中国と異なり、経済力はたいしたことがないこともあって、ロシアに関する言及は少ない。この提言では『ロシアの動きが日本にそれほど大きな影響力があるとは思えない』という分析をしているのですが、果たして本当にそうなのか、注意が必要です。現に、半導体の生産に必要な希少資源の調達への影響が懸念されています。  また、ヨーロッパや中東においてロシアの存在感は増してきており、同時にロシアに対する警戒心は強まっていました。日本は対中連携のためにも欧州との協調が重要になってきますが、その際、ロシアの『脅威』に対する認識を日本は欧州と共有しているのかが、改めて問われることになります」  ロシアに対しても、早急な経済安全保障政策が求められる。 構成/SA編集室 写真/時事通信社
(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

 日本の経済安全保障を確立するためには、国際情勢を正確に分析し、時代に即した戦略立案が喫緊の課題である。江崎氏の最新刊『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』は、公刊情報を読み解くことで日本のあるべき「対中戦略」「経済安全保障」について独自の視座を提供している。江崎氏の正鵠を射た分析で、インテリジェンスに関する実践的な入門書として必読の一冊と言えよう。
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