仕事

「前の職場では〜」を連呼する社内の嫌われ者。どの職場にもいる“転職出羽守”の実態とは

独立して一気に落ちぶれる

 そんなK君は、入社から2年ほどした頃から「もっと稼ぎたい。今がチャンスだと思う」と言い出し、K君を慕う社内の数人と独立して編集プロダクションを立ち上げて退社してしまったのである。  だが、嫌味なK君を慕う者よりも、アンチK君の社員が大半だったこともあり、「独立するの? そしたら仕事お願いするよ!」などと口では言っていたものの、仕事をお願いする者は皆無。  当てにしていたA社からはほとんど仕事はもらえず、さらに聞いた話では、元職のX社も後ろ足で砂を掛けるように辞めていたようで、ほとんど仕事はもらえなかったという。  結局、独立直後から開店休業状態が続くも、大見得を切って編集部の仲間を引き抜いて独立した手前、K君は借金に借金を重ねてスタッフの給料を捻出。だが、1年ともたずに会社は空中分解。  K君は再起を図るべく出版社に再就職をしようとしたがうまくいかず、パチンコのインチキ攻略法を販売する会社に潜り込んだという話を人づてに筆者は聞いた。  その後、K君は借金が増え続けてヤミ金に手を出し首が回らなくなり、借金のカタで裏DVD屋の店長にされてしまったのである。なぜ筆者が足跡を知ったかというと、その当時、K君から電話があり「裏DVD屋の店長は逮捕されるためにいるようなもん、なんとかやり直したいから仕事を紹介してほしい」と懇願されたことがあったからだ。  筆者は「自己破産するか債務整理して、借金がキレイになったらもう一度電話してくれ。今のままじゃ仕事は紹介できんよ」と伝えた。  冷たいと思われるかも知れないが、当時、K君に仕事をお願いした編集者から「取材費をちょろまかされた」という話を相次いで聞いていたため、再起を図りたいなら、まずは金銭トラブルを解消してほしかったのだ。しかし、K君からはそれっきり連絡はなく、携帯電話の番号も変わってしまったのであった。

口は災いの元とは言うが……

 今回、出羽守たちの話を聞きながら、そもそも転職は前職よりも待遇や環境をよくするためにするものなのに、なぜ前職の良さにフォーカスして現職に文句を言うのだろうかという素朴な疑問が頭をよぎった。  職場には良いところもあれば、悪いところもあって当然。それを口に出して改善していくことはむしろ良いことだと筆者は考えている。前の職場の良いところを基準に提案したいという気持ちもわかる。だが、問題はその言い方にあるのではなかろうか。 取材・文/谷本ススム
グルメ、カルチャー、ギャンブルまで、面白いと思ったらとことん突っ走って取材するフットワークの軽さが売り。業界紙、週刊誌を経て、気がつけば今に至る40代ライター
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