日本に住むクルド人家族を描き、第72回ベルリン国際映画祭からアムネスティ国際映画賞スペシャル・メンション（特別表彰）を授与された映画『マイスモールランド』が公開されています。トルコ、シリア、イラク、イランなどにまたがって暮らし、「国家を持たない世界最大の民族」と呼ばれるクルド人の数は約3500万人。そして、差別や迫害を受けたことから、難民認定を求めて来日し、埼玉にあるコミュニティに暮らす人たちは2000人ほどいます。今回は、彼らに取材し、脚本・監督を担当した川和田恵真監督に作品制作の経緯や撮影の過程で感じたことなどについてお話を聞きました。 ［あらすじ］ 17歳のサーリャ（嵐莉菜）は、生活していた地を逃れて来日した父、妹、弟とともに、幼い頃から日本で育ったクルド人。学校の先生になる夢を持ちながら埼玉の高校に通い、親友と呼べる友達もいる。「クルド人としての誇りを失わないように」そんな父の願いに反して、サーリャたちは、日本の同世代の少年少女と同様に“日本人らしく”育っていた。 進学のため家族に内緒ではじめたバイト先で、サーリャは東京の高校に通う聡太（奥平大兼）と出会い、初めて自分の生い立ちを話す。そんなある日、サーリャたち家族に難民申請が不認定となり、父・マズルムが、入管の施設に収容されたとの知らせが入る……。 【画像をすべて見る】⇒画像をタップすると次の画像が見られます ――文学部に進学していますが、幼少の頃から映画監督になりたいと思っていたのでしょうか。 川和田：最初は書き手になれればいいなと思っていました。シナリオが好きだったので、シナリオを書けたらいいな、と。それで大学のサークルで脚本を書いて、撮る段階になって「誰が監督をするの？」と言ったら「自分しかいない」と言われて…。それで勉強しながら映画を撮り始めたのですが、やってみたら面白かったんです。 最初はアイデアや脚本だけだったものが、人と一緒に共同作業をして形になって人に届いていく。そういう経験をした時に、これでは終われない、と感じました。これが本当に自分のやりたいことかもしれないと。 そこで、大学卒業後も映画作りに携わりたいと思い、是枝裕和監督率いる株式会社分福で「監督助手」の仕事を見つけて応募しました。 監督助手は、主に映画の製作現場だけではなく、企画段階から映画作りのサポートをすることができます。分福では若手が経験を積む機会としてそういうポジションを用意していたんです。『海街diary』（‘15）の途中からと、『三度目の殺人』（’17）の企画から完成まで参加しました。その頃に映画作りについて学びました。 ――クルド人難民をテーマに映画を作ろうとしたきっかけはどのようなものだったのでしょうか。 川和田：クルドの女性兵士の写真です。彼女たちはイスラム国（IS）と闘う時に、自分たちを守るために闘わなくてはならなかったんです。なぜそのようなことが起きているのかと疑問を持ってクルドの歴史を学び始めました。そして、日本にも多くのクルド人の方々が暮らしているということを知りました。それが2018年ぐらいのことでした。 私自身、父がイギリス人、母が日本人ですが、日本で生まれ日本で育ちました。でも、見た目はいわゆる普通の日本人とは違います。なので、成長過程で「外人さん」と呼ばれたこともあり、「自分の母国はどこなのか」という異物感に似た気持ちは幼い頃からありました。そういうこともあって、クルド人の存在からは、「自分の国」や「居場所」への問いかけを感じました。 調べていくうちに、彼らをほとんど難民として認めない現在の難民制度や入管へのあり方への疑問も湧いてきました。そこで、映画の監修をして頂いたクルド文化協会を通じて、クルドの方々の家庭訪問をしました。それがこの映画の出発点です。