そんな橋本君の執念が通じたのか、奇跡が起こる。 「正直、もうお金は返ってこないと諦めかけていました。しかし店から退散して3時間後ぐらいにポリスから電話がありました。理由はわからないですが、返金されることになったのです。警察署に行くと1万5000バーツからスーツ代の1500バーツを引いた、1万3500バーツを現金で返してくれました」 　1500バーツでスーツを買ったわけだから、どんな安物の生地で作られているのだろうか。むしろ完成品を楽しみにしていた橋本君は翌日、店に足を運んだ。 「スーツを取りにきました」 　 　すると、店主は怒った顔で言う。 「なに言ってんだ。そんなのないよ。全額返金しただろ！」 「は？ どういうこと？ また嘘ついてるでしょう」 「ポリスに1万5000バーツ返したよ。証拠を見せてやるよ」 　スマホの画面にはインターネットバンキングの振り込み明細。そこに記載されていたのは個人宛て、しかも女性の警察官なんか現場で一度も見なかったはずだが、女性名義に1万5000バーツ振り込まれていたのだ。 　ポリスが1500バーツ抜いたようだ……。 ＜取材・文／嵐よういち＞旅行作家、旅行ジャーナリスト。著書の『ブラックロード』シリーズは10冊を数える。近著に『ウクライナに行ってきました ロシア周辺国をめぐる旅』（彩図社）がある。人生哲学「楽しくなければ人生じゃない」