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「がんを治さない」高齢者が増加中。医師が“がんは幸せな病気”だと考える理由

高齢者になれば、誰しもいつかはがんになる

60歳からはやりたい放題[実践編] これは大事なことなのでぜひ忘れないでいただきたいのですが、がんは高齢者になれば必ず発生する病気です。  私が高齢者専門病院に勤めていた際、毎年、亡くなった高齢者の方の解剖結果を年に100くらいみてきました。  そこで驚いたのが、85歳を過ぎると人間誰しも体のどこかにがんがあるということです。  がんは細胞の老化によって起こるとも言える病気なので、年を取れば、体のどこかが必ずがん化しています。  60代を過ぎてがんが見つかるのは、人間の体のしくみを考えれば、ごくごく自然なことなのです。

がんが見つかっても「治療しない」選択肢もある

60歳からはやりたい放題[実践編] だから、がんが発覚したときは、思い切って「治療しない」という選択肢を取ってもいいのではないかと私自身は思っています。  医師の間では、「シニア世代にとっては、がんは最も幸せな病気」と言われることもあります。  若い人ががんにかかるとまだ細胞が若いので進行が速いのですが、シニア世代の場合、症状はゆっくり進むことが多いものです。  そのため、治療をせずに放置していても、亡くなる直前まではさほど体力も落ちず、痛みも感じません。がんがつらい病気だと思われるのは、抗がん剤治療や手術が大変だからこそです。  がんを患った場合は、突然、亡くなるわけではないので、死ぬまでの間、自分の人生でやり残したことや気になっていることを整理する時間もあります。  それゆえ、患者さんの中には「つらい治療はせず、残りの日々を最大限、楽しく生きていきたい」という選択をされる方も少なくありません。  以前、70代のとある患者さんは、ご自身の体に重度のがんが見つかった際、「高齢だから自分は治療をしないと決めていた」とおっしゃいました。  発覚後、2年後に亡くなりましたが、最後いよいよ調子が悪くなって入院するまでの間は、家の中でいつもどおりに暮らし、好きなことをして暮らしたそうです。 人によっては「治療すれば良かったのに」と考えるかもしれませんが、仮にこの方が手術をしていたら、その後体力が戻らず、病院の中で亡くなっていた可能性も十分にあります。  人間、いつかは死に至るもの。  60代以降になったらがんにおびえて暮らすよりは、「いざがんになったらどうするか」を考えて、心の準備をしておくほうが、過剰なストレスを抱かずに済むのではないでしょうか。 和田秀樹 構成/日刊SPA!編集部
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。 東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、 現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。 高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。 ベストセラー『80歳の壁』(幻冬舎)、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)など著書多数。
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60歳からはやりたい放題[実践編]

前向きで毎日が楽しくなる60の具体策

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