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「就職とひきこもりを5回繰り返して」名門大学在学中に起業も挫折…障害年金で暮らす男性の生きづらさ

「発達障害」が知れ渡り、多くの報道を一般の人が目にするようになって久しい。だが、子どもに対するサポートや支援は充実しているが、成人の発達障害者へのそれはとても少ない。その現状を「みどる」中高年発達障害当事者会の代表を務め、延べ1,500人の発達障害者の相談に乗ってきたM氏(57歳男性)に聞いた。

大学入学と同時に事業を立ち上げるもうつで中退

みどる

「みどる」中高年発達障害当事者会の代表を勤めるM氏(57歳男性)

 M氏は双極性障害ADHDを併発しており、現在は障害年金とエンジニアの業務委託を受けて生活をしている既婚男性だ。M氏はどんな幼少期を送ったのか。 「学校では忘れ物・失くしものが多く、興味を持ったことを繰り返し何度も話すので『くりかえし』というあだ名でいじめられっ子でした」 「そのまま地元の公立学校に進学したらいじめ殺される」と思ったM氏は、親に頼み込んで神奈川県の中高一貫の名門私立学校に進学した。  現役で中央大学法学部法律学科に合格したM氏は、高校の頃に学外で設立したサークルを母体とした有限会社を立ち上げる。しかし、会社は友人や親からの借金で清算しなければならなくなった。せっかく入学した大学だが、会社を清算する手続きの中でうつを発症し、退学してしまう。  うつを発症して以降は、2〜3年働いては適応障害を起こし、2〜3年ひきこもるという生活を送る。就職とひきこもりを5回ほど繰り返した頃、友人の親の介護の相談に乗ったことで自身の発達障害に気付くことになる。 「2012年〜2013年頃でした。友人が親の介護でうつ状態になり、手伝うことにしました。親の介護で友人は“ポンコツ”に一時的になっていると思っていましたが、親御さんが亡くなっても治らない。そこでググってみたら、発達障害の可能性に行き当たりました。だけど、それは僕にも当てはまりました

ないに等しかった成人の発達障害者情報

 発達障害者支援法が施行され、子どもに対する乳幼児健診での早期発見・早期療育(発達の遅れを支援すること)が義務化されたのが2016年8月のことだ。多くのメディアでは、「大人の発達障害」という言葉が使われているが、発達障害は産まれつきの障害なので、正しくは「成人期に発現した発達障害」だ。当時、成人期の発達障害者に関する情報はないに等しかった。 「その中でGoogle検索の3ページ目くらいにやっと出てきたのが、今、僕が代表をしている「みどる」中高年発達障害当事者会のページでした」  だが、障害や疾病の当事者が当事者と情報交換・相談に乗る「当事者会」に対し、M氏の印象は悪かった。 「医者や看護師・心理の専門家などが関わっていないなんて、ヤバい会なんじゃないかと疑いました。だけど、他に成人期の発達障害者への情報はなく、参加してみて目からウロコが落ちました。自分がずっと抱えていた悩みや困りごとを抱えた人がたくさんいてびっくりしたんです
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ベンチャー企業の創業者にも多い双極性障害とADHDの併発
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立教大学卒経済学部経営学科卒。「あいである広場」の編集長兼ライターとして、主に介護・障害福祉・医療・少数民族など、社会的マイノリティの当事者・支援者の取材記事を執筆。現在、介護・福祉メディアで連載や集英社オンラインに寄稿している。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1

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