54歳で発達障害だと発覚した男の“その後”
「宗教に行ったのもわかるでしょう? 今は、よく生き延びたな、と自分でも思います。家族や仕事から逃げる度胸もなかったからかな」
54歳の石山誠さん(仮名)はこれまで「自分は何かがおかしい」と感じ続け、新興宗教や霊能者、自己啓発セミナーを渡り歩いた後、80代の父を2年以上にわたって介護した。最期には仕事も辞めて専念し、看取った直後に「発達障害」の診断を受けた。精神科で診断を出された帰り道では、「何もかも失ってから発達障害だと言われても困る」と思い、涙が流れたという。
発達障害者であるのに長く認められず“グレーゾーン”として生きてきた。そんな彼の経緯を紹介した前回の記事にはさまざまな反響が届いた。
「障害というが、介護をしただけで立派」と石山さんを肯定する意見や「幸せになってほしい」と応援する声、手続きの具体的な方法を示し「石山さんに伝えてほしい」というコメント、そして「お父さんも発達障害だったのでは」といった指摘もあった。
「身近な人に発達障害のことを話しても否定されるばかりだったのですが、今回私の記事が出て、インターネットであたたかい言葉をかけてもらえて嬉しかったです。こんなに共感していただけるような人生だったのかと、はじめて知りました」
石山さん自身も、前回記事への反響をそう話す。実際の友人や遠くに暮らす親戚は、彼を励まそうとして「あなたに障害があるとは思えない」「30年間付き合ってきたがお前を障害者だと思ったことはない」と言葉をかけたそうだ。しかし、石山さんは「ようやく特性がわかって受容をがんばっている段階だから、障害自体を否定されるのは少し違うと思いました」と冷静だ。
先日、そんな石山さんの「WAIS-Ⅲ(ウェイス・スリー)」の結果が出た。発達障害の診断は医師の総合的な判断によってなされるが、参考としてこのウェイス・スリーという心理検査が用いられることが多い。「群指数」(言語理解、知覚統合、作動記憶、処理速度の4種類)という数値の間に15以上の差があると、能力に凸凹があると見られ、発達障害の診断が出る可能性が高いともいわれている。
石山さんの場合は「言語理解」と「作動記憶」の数値において、差が実に「44」もあった。主治医が「こんなグラフはあまり見たことがない。苦労したでしょうね」と石山さんに声をかけたという。
「脳の構造がそもそも凸凹だったのなら、これまでの努力の方向性は間違っていた」と思った。「立派な発達障害です」と言われ、苦笑するしかなかったという石山さん。診断は「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」および「広汎性発達障害(PDD)」で、「学習障害(LD)」の傾向も示唆された。口頭で「アダルト・チルドレン」の傾向も伝えられた。
前職で石山さんの困難さは露呈した。アルバイトをしていた新聞配達事務所には、さまざまな機械設備の轟音、外を行き来するトラックの走行音、専門用語で飛び交う同僚たちの声など、さまざまな音がある。そうした環境でメモを見る余裕もないなか、慣れない作業を次々と手際よくこなしていかなければならず、石山さんは苦労した。同僚からは「メモなんか取らなくても難しくないでしょ」と困難さを軽んじられたり、「大卒じゃこんな単純な仕事やったことないよね」と皮肉を言われたりもしたという。
一方、休憩時間には石山さんは缶コーヒーを片手に雑談の話題を振って盛り上げるタイプで、同僚との関係性はきわめて良好だった。それだけに、石山さんが業務をうまくこなせない理由が何なのか、同僚も石山さん自身も見出せなかった。
心理検査で「44」という群指数の差が確認された今となっては、その理由は一目瞭然だ。石山さんの心理検査報告書には「耳で聞いたものを一時的に記憶し、作業の中でそれらを活用することが非常に苦手である」と記載されている。石山さんは新聞配達事務所のアルバイトを「まったく向いてませんでした」と振り返る。
現在はストラテラという薬を毎日服用することで、落ち着きが出てきたのを感じるという。
ちなみに、ウェイス・スリーの群指数に関してのイメージ動画が少し前にツイッターで拡散され、「いいね!」を5000以上集めた。製作者のいまちあかり氏(@imachiduki877 )のご許可をいただき、ここで紹介したい。
発達障害の診察では驚きの結果が出た
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