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「ブスだから学歴をつけなさい」と言われて育った29歳女性が、相容れない両親と“和解”するまで

20時の門限が「男性がいたら18時」に

 人生のハレの日である成人式でさえ縛り付けられるのだから、当然、大学生活もこんな具合だ。 「門限は20時と決まっていて、『ただし、男性がそのグループにいる場合、18時とする』と定められていました(笑)。サークルも飲み会も楽しむなということですよね。さすがにそんな生活が続くことに限界が来てしまって、大学3年生のある日、私は実家をなかば家出のような気持ちで出て、独り暮らしを始めました。もちろん親からの仕送りはないので、すべて生活費は自分で賄わなければなりません。バイトの日数が増えて、徐々に学業が疎かになっていきました」  板橋氏は、もとは研究職を志した才媛。だがこの頃、うつ病を発症して大学へも足が向かなくなってしまったのだという。 「大学院入試は受かっていたのですが、どうしても大学へ行くのが無理だと思ってしまい、大学4年生の冬から就職活動を開始して、よくわからない企業へ迷い込んでしまいました」

ブラック企業を退職後、悩んだ末YouTuberに

 その選択は板橋氏の心身をさらに蝕んだ。 「いわゆるブラック企業で、精神は悲鳴をあげていました。1年ほどで辞めてしまってから、2年近くは働けずに傷病給付金で食いつなぐ生活が続きました。それでも着実に給付金の終わりは見えているわけで、『何とかしなければ』という焦りが常にありました」  思案にくれた板橋氏がたどり着いたのは、YouTuberだった。 「ニート系YouTuberとして、ありのままを配信することにしたんです。すると登録者数が伸びて、Barの1日店長をさせてもらえたり、いろいろな方面からお声がかかるようになりました。そこで、現在の『嗜好品天国』を任せていただけることになり、店長をやらせてもらっています」  前述の通り、板橋氏だけでなく、スタッフもそれぞれが生きづらさを抱えながらカウンターに立っている。店長としてスタッフを選ぶ側になり、板橋氏は何を感じるのか。 「スタッフの多くは、社会でくすぶっていたり、社会生活において基本とされることができないなどの理由で、ひどい場合には『ポンコツ』呼ばわりされてきた子たちです。しかし時間を守れない子であっても、接客が得意であったり、芸術的な発想において目を見張るものがあったり、それぞれの持ち場で輝ける子ばかりです。こちらが然るべき対応をとれば、その力を発揮できるはずです。現在の社会は、そうした人材を『使えない』として切り捨てようとしますが、本来は、彼らを使いこなせない社会の方に問題があると考えるべきだと思うんです」
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両親と“和解”できたのは接客を学んだおかげ
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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