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「ブスだから学歴をつけなさい」と言われて育った29歳女性が、相容れない両親と“和解”するまで

両親と“和解”できたのは接客を学んだおかげ

 それぞれの凸凹を理解することによって、新たな強みが生まれる。社会人を1年で挫折した板橋氏は、ひょんなきっかけから店長に抜擢され、もうすぐ3年を数える。そのなかで学んだことは大きいという。 「かつては両親と一緒にいると、2日と精神がもちませんでした。しばらく両親を遠ざけていた時期もありましたが、ここ2年ほどは、会えているんですね。それは、『接客』を学んだことによるところが大きいと私は思っています。お客さんに対してだけでなく、たとえ血が繋がっていても、『接客』することは大切だなと感じます。家族だから何でも理解してくれて当たり前ではありません。接客と同じように、相手の発言に即座に反応するのではなく、ワンテンポ置いてから『そうなのですね』と言えるようになると、これまで『話の通じない人だな』と思っていた親も、そこまで腹立たしく思わないのが不思議です

「安心して働いてもらえる場所」を育てていきたい

嗜好品天国

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 自身の課題と向き合い、家族関係を克服しかけている板橋氏には、今後の目標がある。 「このお店がスタッフの経済的基盤となれるようにしたいですよね。現在、会社で働きながら副業で入ってくれているスタッフのなかには、『本当はお店だけをやりたいけど、経済的な不安があるからしんどい思いをして会社で働いている』という人がいます。このお店をもっと展開していって、スタッフたちに安心して働いてもらえる場所に育てていくのが目標です。私自身、社会人のころは『やめたい』と思い続けてきましたが、今はそう思いません。しんどい思いをして我慢しながら働かなくても、楽しく安定的に稼ぐことは可能だと思うんです。社会には給料とワークライフバランスが二択であるかのような言説がありますが、そうではないと私が証明したいですね」  寛容さを失っていくこの社会で、ありのままを誰かに認めてもらえることは、どれほど大切だろう。両親からの期待、社会人としての規範など、あらゆる“型”にうまく適合しない「ダメな自分」を自覚することは、板橋氏にとって世界からの拒絶をも思わせる辛い時間だったに違いない。だがそれを「面白い」と見出してくれた見も知らないYouTubeチャンネル登録者や来訪客によって、氏は他者の弱さを受け入れる懐を獲得した。もしも社会に適合しないなら、自分や仲間が適合する場を作るまで。やりがいも経済力も諦めない氏の信念が、欲張りなどと言われず肯定される社会の到来を切に願う。 <取材・文/黒島暁生>
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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