ライフ

「無料で修理しろ!」カーディーラーに理不尽な要求をする“迷惑客”が態度を一変、謝罪の言葉を口にするまで

車のサビを無料で修理しろ!

整備士 佐藤さんにとって印象的だった迷惑客は、ほかにもいる。  Bさん(仮名・50代)は、車の細部にまでこだわる神経質な客としてスタッフ間では有名で、エンジンオイルの量を0.1リットル単位で指定するほどだった。  そんなBさんが予約なしで来店したときのことだ。  車の下回り(エンジンやサスペンションなど、車体の下部の部品)のサビについて相談してきた。 「車の下を覗いたらさー、なんか茶色くなってるから見てくれる?」  佐藤さんが車をリフトアップして下回りを点検すると、運転席の足元付近に10cm程度のサビが広がっていた。これを伝えると、Bさんは激怒した。 「普通さー、車の下回りなんて塗装されてるから錆びないでしょ、作っている段階で塗装ミスがあったんじゃないの〜? リコールだろ、こんなの」  要するに、Bさんは無料で修理しろと言うのだ。 「お車に関するリコール内容をお調べしましたが、塗装に関するものはありませんでした。おそらく、飛び石などから塗装が小さく剥がれてしまい、そこからサビが広がったと思われます。Bさんのお車の下回りは防錆処理などを施していないため……」  佐藤さんは丁寧に説明を試みたが、Bさんは納得せず、上司を呼ぶように要求してきた。結局、工場長や店長まで巻き込む騒ぎとなったが、リコールは認められなかった。 「そもそもリコールはメーカーが決めることなので通るはずもなく、塗装保証に関しては新車購入から1年〜3年程度の場合が多いため、10年経っているBさんの車は保証のほとんどの期限が切れてしまっていました。  もしも店側が費用を負担するとなった場合、今後は“言えばやってくれる”状態となってしまうため、無料での修理はお断りし、他でみてもらうように促して帰ってもらいました」

以前よりも笑顔が増えた

 佐藤さんは、“無理な要求をしてくるようならキッパリとお断りしよう”と心に決めていたが、数週間後、Bさんが再び来店した。今度はどうなることやら。しかし意外にも……。 「あのー、以前見てもらったサビの修理の見積もり出してもらいたくて」  どうやら他の修理店でも相手にされず、結局は佐藤さんの店に戻ってきたようだった。その後、Bさんは見積もりに納得し、板金修理と防錆処理を行うことになったとか。Bさんは満足した様子で、今でも定期的に来店しているそうだ。神経質なところは変わっていないが、以前よりも笑顔が増えたという。  怒鳴り散らす客が突然謝罪し、頑固な客が態度を軟化させる——。カーディーラーの店内で、スタッフたちは今日もさまざまな客と向き合っている。そこには、人間関係の機微が凝縮されているのかもしれない。 <取材・文/日刊SPA!取材班>
1
2
おすすめ記事
【関連キーワードから記事を探す】