“原発マネー”を31年拒否してきた島が緊急事態に
「上関原発を建てさせない祝島島民の会」の清水敏保代表はこう語る。
「山口県漁協の職員は『10億8000万円を受け取っても受け取らなくても税金がかかる』とウソの脅しをかけるなど、補償金を何とか受け取らせようと圧力をかけてきました。そして、県漁協は今年2月に祝島支店での部会で強引に受け取りの可決をしたんです。漁業権にかかわる総会の議決は3分の2以上の同意がなければならないという決まりなのに、県漁協は半数以上の賛成で可決という認識。補償金を受け取るかどうかは、漁業権にかかわる重大な問題です。生態系が崩れて漁獲高に影響が出る可能性もあるし、風評被害も予想される。釣り客などの観光収入も減るでしょう。何よりも、われわれ反対を貫いてきた島民たちの思いは『海はカネには換えられん』ということです」
これに対して、今年3月に祝島漁協の組合員53人のうち31人と准組合員8人が「漁業補償は受け取らない」との署名を提出した。しかし、県漁協はこれを無視。8月2日17時から総会を開き、漁業補償金の分配案を決めるつもりだ。
なぜここまで強引に可決を焦るのか? それにはこんな背景もある。
上関原発は現在、福島第一原発事故を受けて工事が中断している。安倍政権は原発再稼働と原発輸出には熱心だが、新規増設については参院選公約でも触れていない。上関町が今年度受け取る原発関連交付金は7200万円。昨年度の12億9000万円から激減した。総工費9億5300万円のうち8億4600万円を交付金で賄った温泉保養施設をはじめ、新たに整備された公共施設の維持費も必要だ。原発マネー依存路線を決めてしまった上関町としても、早期に本格着工にこぎつけて多額の交付金を分配してもらわなければならない。すでにカネを受け取ってしまった県漁協だけでなく、地元自治体にとっても原発建設は悲願となっているのだ。
「『海を守りたい』というわれわれのまっとうな願いに対して、どうして県漁協は無理矢理カネを押しつけてくるのでしょうか。補償を受け取るかどうかというのは漁業者だけでなく、海とともに生きる島民全体の問題。ここでカネを受け取ってしまったらすべてが無駄になってしまう。われわれが31年間反対し続けてきたからこそ、そして全国の方々の支援があったからこそ、この土地に原発は建てられてこなかったのです。多くの人たちの長年の思いを反故にするようなことは絶対にできません」(清水代表)
8月2日、山口県漁協がどう判断するのかに要注目だ。 <取材・文・撮影/北村土龍>
※原発に依存しない島づくりを目指す祝島島民の姿をリポート
(週刊SPA!2011年6/14・21号の記事を特別公開) 「原発と闘う小さな島の30年史」https://nikkan-spa.jp/16562
上関原発建設予定地の対岸3.5kmの地に浮かぶ人口約500人の島、山口県上関町・祝島。
地元自治体が原発関連交付金を受け取り建設推進と傾く中、島民たちの約9割が建設反対。“原発マネー”の受け取りを31年にわたって拒否し続けてきた。
主要産業は漁業で、漁業補償金受け取り対象となる8漁協のうち、祝島の漁協だけが受け取り拒否を貫いている。その額、10億8000万円。現在、この歴史が覆されようとしているという。
(週刊SPA!2011年6/14・21号の記事を特別公開) 「原発と闘う小さな島の30年史」https://nikkan-spa.jp/16562
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