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芥川賞作家と人気歌人が語る「『恋愛がない世界』というパラダイス」

 初の“恋愛小説集”である『ファイナルガール』(扶桑社刊)を上梓したばかりの芥川賞作家・藤野可織氏と、恋愛エッセイも多く手掛ける人気歌人の穂村弘氏が「恋愛」をテーマに対談。人の心をふるわせる「恋愛小説」のツボとは何かを語りあっていたところ、話は意外な方向に……。

インタビュー, サブカルチャー, 小説, 恋愛・結婚――おふたりの中で印象的な恋愛小説と言えば?

藤野:『羊たちの沈黙』……というか『ハンニバル』は、完全に恋愛小説ですよね。

穂村:レクター博士とクラリスの関係みたいに、お互いの真価を認め合うということへの憧れがあります。将棋とか数学とかのジャンルって、最高の才能を理解できる人って限られているわけでしょ。それが五人くらいいるなら恋愛じゃないけど、もし一人しかいないなら、この世で一人しか自分の能力を真には知覚できないっていうことになり、それは唯一無二の絆だから、恋愛めいてきますよね。

藤野可織氏

藤野可織氏

藤野:よく少年漫画でもありますね。アンパンマンとばいきんまんもそうだし。

穂村:そういうもののほうが純度が高いと思うんです。繁殖と関係ないから。たとえば『ローマの休日』も、普通の二人であれば普通に付き合って普通にセックスするんだけど、そうじゃないという縛りがあるから名画になる。

藤野:薬師丸ひろ子と松田優作の『探偵物語』がものすごく好きなんですけど、あれもそうですよね。最後の空港でのキスは、この先あの二人は二度と会わないだろうと思うからこそ、ああいいなあと。

穂村:そうしないと散文に落ちてしまうから。あるいは楳図かずおさんが繰り返し書いてますけど、生殖年齢以前の愛みたいなものもありますね。

藤野:『わたしは真悟』とか。

穂村:あれはまさにそうですよね。『わたしは真悟』も『洗礼』も『漂流教室』も、そう。両方子供という場合もあれば、大人に子供が片思いをして、相手の配偶者を排除しようとしたり。好きな人が学校の先生で自分が子供の場合、奥さんの股間にアイロンを当てようとするんですよね。あれは股間じゃなきゃいけない。「ここから人間が……」みたいな呪詛がすごくある。

藤野:今「ここから人間が……」って穂村さんが言ったとき、楳図かずおの絵で女の子がそう言ってるのがリアルに思い浮かびました(笑)。『14歳』でも、なぜか常に股を開いている宇宙人が飛来して、男でも女でもガンガン犯していくシーンがあるんですけど、そこを読んだときすごいきっぱりとした嫌悪というか、拒絶を感じましたね。生殖に対しての。

穂村:そういうところが、やっぱり未来の価値観という感じがするんです。恋愛についてのトークイベントのとき、最後の質疑応答で、若い女性に「恋愛ってそんなにウェイトが高いものなのか」って、心から不思議そうに言われたんです。自分は恋愛したことないし、恋愛なんていらないような気がすると。そのとき、なんだか未来人って感じがした。いずれ「昔はこんなにも恋愛に拘泥しなければサバイバルできなかったのか……」みたいに言われる日が来るのかなと。

――「未来の価値観」とは?

穂村弘氏

穂村弘氏

穂村:自然に潮目が変わるように、価値観は変わっていくでしょう。たとえば、僕が学生のころは、長男は実家に帰らなきゃ、という感覚がまだナチュラルにあったんだけど、今の東京の大学生ってそういう感じじゃないと思うんですよ。家システムがもうないというか。いったんそうなってしまうと、「なぜ生まれた順番が重要なのか」というのはなかなか説明しづらい。恋愛でいうと「婚前交渉」とかすでに言葉が不思議。その段階が進むと、「なぜ恋愛がそんなに重要だったのかわからない」ということになるのかなあと。藤野さんの『ファイナルガール』を読んで「未来からの声」を聞いた感じ、自分はまだ恋愛の重力に囚われている感じがしたなあ。

藤野:「未来からの声」ってほどのものではないと思いますが、恋愛ってもののために自分があるんじゃなくて、自分のために恋愛を使うべきだとは思ってます。

穂村:ここ数十年、恋愛は必須科目みたいに強くアナウンスされてきたから。もっと選択科目だろう、みたいな感じ?

藤野:必要に応じて効率的にすればいいとは思いますね。

穂村:そういう意味では、佐々木倫子の『動物のお医者さん』という漫画は、まったく恋愛のない世界ですよね。妙齢の男女が出てくるんですけど、一切誰も恋愛に興味を示さない。というか恋愛の存在を知らないみたい。非常に特異な世界。

藤野:あれは傑作でしたね。あの作品で、恋愛しなくてもいい、という免罪符をもらったみたいに感じた人は多かったんじゃないかな。恋愛しなくても面白いことはいっぱいあるし、恋愛しなくてもこんなに楽しく生きられる。

穂村:『動物のお医者さん』を読んでいると、不思議なパラダイス感がありますよね。性欲が、とくに男性側の性欲がまったく出てこないですからね。性欲がないとここまで世界は平和なのかと思いました。

 藤野氏と穂村氏の対談の全文は、現在発売中の『en-taxi 41号』にて掲載! 恋愛カルチャーを縦横無尽に語り尽くす二人のトークをお楽しみください。

 藤野氏の新刊ファイナルガールもお見逃しなく。

<取材・文/日刊SPA!取材班>

ファイナルガール

芥川賞作家が贈る恋愛小説集




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