更新日:2014年06月09日 09:12
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人によって感じられない特定のニオイがある!? 【ニオイの遺伝学】

「スメル・ハラスメント」という言葉をご存じだろうか? 直訳どおり「ニオイによる嫌がらせ」なのだが、セクハラ・パワハラと根本的に異なるのが当人には迷惑をかけている自覚がない、ということ―― <ニオイの遺伝学>人によって感じられない特定のニオイがある!?
新村芳人氏

新村芳人氏

 メスは遺伝子的に相性の良いオスのフェロモンを求める――という俗説はよく聞くが、実際に遺伝子レベルでニオイの好みは決まるのか? 東京大学大学院農学生命研究科特任准教授で比較ゲノム学を専門とする新村芳人氏に聞いた。 「待合室にイスを並べ、一脚だけにほのかに香るアンドロステノン(ヒトフェロモンの最有力候補)を噴きかけたら、何人もの女性がそのイスに座ったという実験結果はあります。が、遺伝子レベルで証明されてはいないんです」  新村氏によると、ニオイに関して、遺伝子が作用しているのは、「ニオイの知覚の個人差」。 「そもそも“ニオイ”とは、におい分子が鼻の粘膜内にある約400種類もの嗅覚受容体と結合して脳に伝えられることにより知覚されるものです。遺伝子は一人ひとり異なりますから、嗅覚受容体のレパートリーも人により異なる。ある嗅覚受容体の遺伝子を持たない人は、特定のニオイを感じられないということがあるわけです」  では、ニオイの好みは? 「好みは後天的な『学習効果』が大きい。そのニオイを体験した環境により決まりますし、また文化的な影響もあります。例えば、大便のニオイは大人にとっては不快ですが、赤ちゃんは気にしません。日本人にとって慣れ親しんだ納豆のニオイは欧米人にとっては蒸れた靴下と同じとなる」  ただ、体臭についての好みは遺伝的要素もあって……。 「強い子供を産むために自分とは異なるMHC(免疫反応に必要な多くのタンパク質の情報を含む遺伝子領域)を持つ異性のニオイを好むというデータは有名で、逆に言えば、MHCが近い父親のニオイを嫌うとも言える。ただ、近親相姦を避けるためという説については、だとしたら幼少期から父親を避けてもおかしくはないわけで、これについては断定はできていません。思春期の娘が父親のニオイを嫌うのは社会的な影響では」  なんでも、「脳の嗅覚情報処理に関わる嗅球は、食欲や性欲など本能的行動や喜怒哀楽などの情動をコントロールする大脳辺縁系に直結している」とかで。素人考えだが、ニオイが「生理的に嫌い」に直結しやすいのもそのためでは!?  最近になり、「人は1兆種類のニオイを嗅ぎ分けられる」という論文も発表されたそうで……思っている以上に、人は鼻がいい。やはり、ニオイは侮れない。 【新村芳人氏】 東京大学大学院農学生命研究科特任准教授。専門は分子進化学、比較ゲノム学。哺乳類やカメなどの嗅覚受容体遺伝子などを研究。著書に『興奮する匂い 食欲をそそる匂い』 ― [スメハラ]被害報告リポート【4】 ―
興奮する匂い 食欲をそそる匂い

遺伝子が解き明かす匂いの最前線

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