すき家は氷山の一角【飲食業界の激務事情】
アベノミクスで景気が上向いたと言われるが、賃上げやボーナスの増加でホクホク顔なのは一部の大企業だけ。その恩恵に与れず過酷な状況にあえいでいる業界は多い。共通するキーワードは「長時間労働」と「定額残業代」だ。介護、飲食、IT、アパレルetc.の悲惨な経営環境、労働実態をリポートする!
◆月給18万円で残業代ナシ!休日出勤も「自主研修」【飲食業界】
「居眠り運転で交通事故を3回起こした。人員が確保できず、金曜から月曜は回転」。「シフト時間、シフト調整により寝る暇がない」。「休みがない。3か月に1回あればいいほう」。「30日間オフなし。ピークの時間ワンオペ(一人勤務体制)」。「サラリーマンの生活ではない。このまま働いていても結婚もできないし、まともな生活ができない」――これは大手牛丼チェーン「すき家」が7月に公表した第三者委員会の報告書にあった社員やアルバイトの退職理由の数々だ。
「回転」とは24時間連続勤務のことを指す、すき家の社内スラング。月間労働時間が400~500時間の者も珍しくなく、2週間家に帰っていない者もおり、過労死の危険性すら指摘された。だが、これは飲食業界のブラックな現状を示すほんの一例にすぎない。
都心から1時間ほどの郊外に新規出店した居酒屋チェーンに店長見習いとして勤務し、わずか3か月でうつ病、自律神経失調症の診断を受けた森川正吾さん(仮名・24歳)は、そんな犠牲者の一人だ。
「店舗の開け閉めから清掃、アルバイトなどの勤務シフトの調整、材料の準備までしなければならず、朝の10時から深夜4~5時頃まで休憩なし。休日も月に1日あるかないかといった状態でした」
居酒屋の新規出店が相次ぐ激戦地区だったため、営業時間外の早朝にも駅前に立ってチラシやビール1杯無料券を配布しなければならず、最初の1か月で残業時間は120時間を超え、フロアで立ったまま眠って転倒しかけたことが何度もあったという。
「衝撃だったのは研修がまったくなかったことですね。店長見習いなので当然店長の下に付くと考えていましたが、配属された店舗には派遣の調理師とアルバイトが数人いるのみ。本部から来たマネジャーは『とにかく人間力がない』、『笑顔がわざとらしい』と怒鳴るだけで、『レジと厨房を5秒以内に歩けるようになれ!』と何度も往復させられました」
初任給は20万円だったが、最初の半年の見習い期間は18万円。残業代は一切付かず、休日出勤も「自主研修」として処理されていたという。
― なぜこの業界は、不景気のままなのか?【2】 ―
ハッシュタグ