「鉄板焼き」が勝負デートでテッパンな理由
いまどき、女子をオトすために高級レストランに連れて行くなんてカッコ悪い。しかし、女子を連れて行けるような高級レストランのひとつも知らないのは、もっとカッコ悪い。
とは言え、不慣れな懐石やフレンチでは、挙動不審になって恥をかく可能性があるし、かと言って中華やイタリアンでは重厚感が出ない。
その点、寿司はどうだろう? 「最高の素材」と「無駄の無い握りの技術」。無駄なものを削ぎ落とした、瞬間芸術とも言うべきシンプルなこの料理には、重厚感がありながら、それでいて普段からグルメづいていなくても楽しめるものだ。
だが、こと「デート目的」という観点からは、この寿司すらも、手放しで推奨しづらい点がある。それは“提供の早さ”だ。
今でこそ「ご馳走」となった寿司も、元々は江戸っ子のファーストフード。ツマミと酒でスタートすれば、多少は滞在時間を延ばすこともできるだろうけれど、ひとたび握り始めたら、そこからは1時間とかからず終わってしまう。食事そのものを会話しながらゆったり楽しむには、不向きなのである。
それでは、何を食べれば良いの?
「勝負デートのテッパンは鉄板焼きですよ!」
そう話すのは、日本フードアナリスト協会認定のフードアナリスト、那珂川亜久里(なかがわ あくり)氏。持ち前のグルメ知識で多くの女性をエスコートしてきた氏曰く、「鉄板焼は、肉や野菜を鉄板の上でただ大仰に焼いてるだけのものではありません。立派な日本料理です。さらに言えば、“火を使った寿司”のようなもの」だそう。
さらに鉄板焼は、寿司の利点を活かしつつ、なおかつ寿司の不利な点をカバーしているとも言う。
グルメづいていない人にもハードルが低く、それでいて女子をエスコートするのにピッタリ。それが鉄板焼きなのだ。
その理由は、大きく3点に集約されると言う。
1:食材へのこだわり
「そもそも質にこだわった食材を、できるだけ手を加えずに食べることこそが、日本料理における至上の価値とされています。とくに寿司と鉄板焼はその傾向が強く、一般の和食店以上に、素材の仕入れにお金がかかっています。だからこそ、一流店ともなると、その素材の話を料理人から聞くだけで楽しめると言うもの。正直、舌に自信が無い人でも、うんちくに耳を傾けるだけで、おいしそうに感じられるものです」
2:調理のおもしろさ
「寿司はその包丁と握りの技術で、食材の良さを最大限に活かします。同様に、鉄板焼は火入れの技術で、食材の良さを最大限に活かすのです。ターナーと呼ばれるヘラ状の道具とミートフォークとを巧みに使いながら、最低限の調味料で、“素材”を“料理”へと変換する様は、ダイナミックなエンターテインメントと言うべきもの」
3:遊び心のある演出
「職人がストイックな方向性を追求しがちな寿司と対照的に、鉄板焼は演出の仕方に店それぞれの遊び心が反映されるもの。料理の見せ方や盛りつけ方、店内の内装や調度品に至るまで、寿司店には真似ができないような、良い意味で好き勝手が許される料理ジャンルだからこそ、よりわかりやすく楽しめるのは鉄板焼でしょうね」
そんな鉄板焼について、那珂川氏がデートにオススメするお店「鉄板焼 銀座すみかわ」を例に解説してもらった。
銀座中央通り、銀座三越の並び、という間違いなく一等地でありながら、目につかないひっそりとした佇まいは、意識しないと通り過ぎてしまいそうなほど。店内に一歩踏み入れると、そこには洗練された和モダンな空間が広がる。隠れ家的な雰囲気がデートにはうってつけだ。
鉄板焼きをプッシュする理由について、那珂川氏は前述のポイントを踏まえつつ、以下のように語る。
【1】一流食材のオンパレード
例えばメインの「和牛ステーキ」。
「コースの価格に応じて、神戸ビーフや松坂牛といったブランド牛を堪能できます。赤身を好まれる方には、最近注目を集めつつある赤牛の用意も。どの肉も、総料理長の神辺氏が、元ホテルニューオータニの鉄板焼料理長の人脈を活かして、競りにかける前の一番良いところを持ってくるので、品質は折り紙つきです。また、和牛は月齢を重ねた方が肉の味が増すと言われており、この店の場合は神戸ビーフや松坂牛は月齢30か月以上。それだけでも期待が高まるというものです」
さらに、メインのステーキに添えられている「真妻のワサビ」。
「ワサビの最高品種と言われる真妻種のワサビは、伊豆の水がきれいな畑でしか採れません。天候にも左右されるため、上物となると、なかなか入手できません。清冽な辛さの中に柔らかな甘味が感じられて、ステーキの力強さとがっぷり四つの好取組です」
そして個性豊かな「伝統野菜」。
「野菜が単なる付けあわせに留まっていません。文字通り、皮が赤くて栗のような甘さの石川県の加賀野菜『打木赤皮甘栗かぼちゃ』や、肉質が柔らかくて焼くととろけるような食感を楽しめる長野の『ていざなす』など、日本各地の魅力的な野菜が揃っています」
シメのガーリックライスに使われているブランド米「匝瑳の舞(そうさのまい)」。
「千葉県の『ふさこがね』という品種の中で特に質の高い米だけが名乗れるこのブランド米は、大粒でふっくらとしています。新潟県産のコシヒカリに劣らない評価を得ている一方で、粘りが少ない点でガーリックライスに向いています」
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「そんなわけで、単にブランド志向というわけではなく、料理に合わせて最適な食材を選んでいる点もこの店の魅力です」
【2】見る者のテンションを上げる焼きの技術
「特にエビの調理はお見事。ターナーとミートフォークだけで器用にエビを捌く様、そして鉄板の上で半身を揚げるようにカラリと焼き上げる様は圧巻。『職人芸』という言葉がピッタリ。また、鉄板に敷く油には、酸化しづらい米油を使うことで、まるでしつこさを感じさせないところもさすがです。年齢を重ねた大人の胃袋を胸焼けさせません。
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【3】遊び心を楽しめる演出の数々
「『もぎ取りサラダ』と名づけられた、グラス入りのサラダに使うフリルレタスは、特別な育て方で、提供時もまだ根が水を吸っている“生きているサラダ”。茎のところを根元から“もぎ取って”食べる楽しさがあります」
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鉄板の前からテーブル席へと移ったところで、ゆったりとデザートをいただけるのも、うれしい演出だ。
「そもそも寿司において、甘いものと言えば、せいぜい『玉(玉子)』くらいのもの。この店では自家製アイスクリームやフルーツを提供しています。もちろん、味にも抜かりはありません」
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「ほかにも食器に使われている備前焼やイタリアから取り寄せられた調度品のステンドグラスや、旭川から取り寄せたという長時間座っていても疲れを感じさせない椅子など、一見して気づかないようなこだわりが細部に行き渡っているのも好感が持てますね」
そして最後に何より好ましいのは価格設定が良心的なこと。
「コースは15000円~。高いと感じるかもしれませんが、銀座という立地を考えれば良心的です。ランチであれば5000円から楽しめます。銀座でなくても同等のクオリティーの鉄板焼きをホテルなどで食べようと思ったら、このお店の料金の+1万円程度の出費は覚悟しなければいけません」
このように、デートの店に、ただ「美味しい」だけではなく、「楽しい」要素を用意しておくことこそが、男の甲斐性と言うもの。
フレンチレストランで不慣れなマナーに四苦八苦するよりも、寿司店で女の子に「早いよ」と言われちゃうよりも、ワクワク感に満ちた鉄板焼で、勝負デートに見事勝利するのだ!
【那珂川亜久里氏】
‘78年、うどん県生まれ。執筆や講演、商品開発等を行う食のスペシャリスト。ライフワークは全国各地を飛び回り、地域の魅力的な食を発掘する気鋭のフードアナリスト
<取材・文・撮影/SPA!編集部 S級グルメ班>
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