昭和の人のほうが「人生はカネ」と思っていた
過去を懐かしむことは決して悪いことではない。しかし、昭和ノスタル爺の懐かしみ方は常軌を逸している。昭和は本当に良かった時代なのか!? “昭和ブーム”の浅薄さを検証し、その後ろ向きな懐古主義がもたらす弊害について考えてみた。
【昭和懐古主義派の主張】
◆今は(ホリエモンとか)利益追求でカネに目がくらんだ企業が多いが、昔は節度があってマジメに頑張っていた
「利益のことしか考えないIT長者やヘッジファンドに、食品偽装や耐震偽装……企業のモラルが昔に比べて全然なってない!」と憤る昭和ノスタルジー信奉者。「昔は社長も社員も一丸となって、世の中が少しでも豊かになるように懸命に努力した。結果的にそれが高度成長をもたらし、日本の礎をつくったのだ」とのことだが……!?
【実際は……】
◆ヒ素ミルク混入事件や雑な売血も問題化
映画『ALWAYS 三丁目の夕日』の舞台は昭和30年代だが、当時の社会状況を検証した『昭和33年』(ちくま新書)の著者・布施克彦氏によると懸命な努力は否定しないが、利益追求のあまりモラルハザードが生じた事例も少なくないという。昭和30年には森永乳業の粉ミルクにヒ素が混入し、多数の死亡者が出た。
また現在は違法の“売血”も当時は合法。血液銀行はロクな検査をせずに血を買い集めた。提供者には低所得の労働者が多く、肝炎に罹った覚せい剤中毒者らもいた。結果、輸血後の患者が肝炎に陥る事態が続出し問題が露呈した。
個人の価値観も今と異なり、統計数理研究所による「あなたにとって一番大切なもの」調査では、当時は「生命・健康・自分」が最多。「愛情・精神」、「金・財産」と続く。一方、平成15年の1位は断トツで「家族」。「金・財産」は5位。我が身とカネは、昔のほうが重んじられていた。
【布施克彦氏】
’47年、東京都生まれ。総合商社やメーカー勤務を経て、著作活動に入る。『昭和33年』、『元商社マンが発見した古代の商人たち』など著書多数
イラスト/テラムラリョウ
― [昭和ノスタルジー]が日本を滅ぼす【3】 ―

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