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『半グレ』作者を直撃。平凡な見た目の若者がゲーム感覚で犯罪に…

市民権を持つようになった、“半グレ”という言葉

半グレ「半グレ」という言葉が、一般に認知されるようになって久しい。「暴力団に所属せずに犯罪を繰り返す集団」を指しており、グレる、愚連隊、グレーゾーンなどが語源と言われている。半グレ集団は山口組、工藤会といった既存の暴力団と異なり、明確な組織や活動拠点を持たず、利害の一致した者同士がアメーバ的に離合集散を繰り返すのが特徴。そのため、暴力団よりも取り締まりが困難と言われている。  こうした半グレの実像をピカレスク(悪漢)小説の形で描いたのが、その名も『半グレ』(彩図社)。2012年に単行本で出版されたが、今春、文庫化された。著者は裏社会事情に詳しい作家・草下シンヤ氏。約10年の間で半グレにどのような変化があったのか、半グレたちはどういう人々なのか、話を聞いた。

虚無感が裏社会に繋がっている

「この小説は、“虚無感”をテーマにして書きました。主人公の真(まこと)は1章ごとに何かを得て、同時に何かを失っていく。人間の愚かしさでもあるんですが、誰にでも通じる部分があると思います。私がもし悪の道に進んでいたら、真のようになっていたでしょうね」(草下氏、以下同)  就職活動に行き詰まっていた真は、シングルマザーの母と高校生の妹を支えるため、新卒で怪しげな風体のイベント会社に就職する。だが、入ってみるとマネーロンダリングをしていることが分かり、さらに社長が覚醒剤所持で逮捕され、元暴走族だったことが判明。社長職を任されるハメになり、そこからズブズブと悪事に手を染めていく。純朴だった主人公が、だんだんと価値観を狂わせ、家族や親友といった大切なものを失っていく姿が切ない。 「カネ、女、権力、名声。主人公はそういうものを手に入れながら、一方では親友や家族、妹とのつながりを失い、最後には人間らしい心まで失ってしまう。普通の人間は、他人が殴られている姿を見ると嫌な気持ちになるものですが、“あっちの世界”に長くいると、徐々に感覚が麻痺して何とも思わなくなってしまうケースが非常に多いんです。麻痺させないと、生き残っていけないからでしょう」  遠い世界の話のようにも思えるが、その入り口は意外なほど身近なところにある。 「ツイッターやLINEのグループチャットで、“おいしいバイトあります”なんて募集を見たことないですか? 応募すると、オレオレ詐欺の受け子やカード詐欺の片棒を担がされたりすることがあります」  私(筆者)もかつて、グループチャットをきっかけに金の密輸の運び屋の仕事を持ちかけられたことがある。話だけ聞いて断ったが、あのまま手伝っていたら、半グレの世界に足を踏み入れていたかもしれない。 「暴力団の場合は“盃をかわす”という明確な儀式がありますが、半グレの場合はそういう線引きがない。なんとなくなってしまった、というケースはよくあります」
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様相を変える半グレの在り方
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