自宅で過ごす時間が増えたことで、競輪人気が再び高まりつつある。また、深夜まで楽しめるミッドナイト競輪はゲーム感覚で楽しめるとして、若者にも人気だ
競輪は「社会性のゲーム」だ!
最近、競輪の人気がネット投票や中継の普及、そして深夜開催のミッドナイト競輪によって再熟している。令和元年から競馬などと同様、競輪も競輪場や場外での売上よりネット投票による売上のほうが上回っているくらい、夜の時間をネットで競輪を楽しむ人が増えてきてきた。だが、競輪は残念ながら本や雑誌などでの資料が少なく、ネット検索での我流で知るしかないのが現状で、「レースを見てて楽しいけど、よくわからない」という声もよく聞かれる。そこで今回は、競輪のイロハを基本用語を説明しながら説明していこうと思う。
人の心が読みたい。誰もが一度は思ったことがあるのではないだろうか。競輪はそんな「心を読む」ゲームとして優秀な遊びだと思ってもらいたい。なぜなら、誰がどこで仕掛けるかによってレースの展開が大きく左右されるからだ。
・部長は仕切りたがりだから気分良く仕事させると良い仕事を回してくれる
・あの部下は黙々と仕事をこなすタイプだから過剰な指示はしないほうがいい
・ライバル会社は新規取り込みに力を入れているからこちらは既存の売上を伸ばそう
・彼女はコスメ好きでおしゃべりだから、コスメの話を振ってみよう
こんな「読み」は仕事や生活において皆さんも日常的に行っていることだろう。実は競輪は、そこを鍛えることができるのだ。
競馬ならば馬の評価をするのに血統、調教、時計、騎手、パドック……と数多くの要素に彩られているのに対し、競輪は人が競技を理解して走っている。だから成績と前走、コメントを見れば調子や脚力判断は終わるだろう。競輪はそこからどう走るか、つまり選手が考えて作り出す展開を読むことで予想やレースを楽しむのだ。
——競輪を難しいと感じるのは「ライン」という独自性があるからだろう。なぜラインがあるのか? 必要なのか? ここさえ理解すれば、壁を超えてあっというまに中級者になれるだろう。用語から競輪を理解する試みだ。
【風圧・スリップストリーム】
地球上では「空気」を切り裂かないと前へは進めない。誰でも車やバイクなどで高速移動したときに風圧を感じたことはあるはずだ。レース用の自転車は軽くて細いため無視して考えると、レースで時速60km前後で走る競輪では人間の体をそのままに60kmで移動している奇妙な状態だ。
つまり競輪では、速さと人間の体が受ける風圧とのギャップが激しく、他のレース競技に比べ風圧の影響が大きいのだ。特に先頭で走ると風圧を大きく受け、スタミナの消費が激しくなる。そのため、風圧に耐えられる距離になるまで誰かを風よけとして利用し、後ろを走ることで風を避けることをする。
風圧を避けるために、レースは誰かが仕掛けるまで縦にずらっと並んで進んでいく。だが、これでは一番有利なのは前から2番目を走る選手になる。ゴールから近く、前が風圧を受け続けるからだ。競輪が戦後誕生してから、どう戦うのがよいか試行錯誤した歴史があり、いくつかの戦い方が試された結果生まれたのがライン戦という戦い方である。
【ライン(スジ・筋)】
ラインとは2人以上の選手が縦に並ぶ形で組んで戦うことを指す。筋(スジ)ともいう。
←123-456-789
この場合だと、123というラインと、456というラインと、789というラインが存在する戦いということだ。競輪では選手がどう戦うのかコメントを出しラインを事前にある程度知ることができる。また、当日のレースでは脚見せ・選手紹介といって2周ほどバンクコースを走り、どう連携するのかを見せてくれる。
【自力・先行選手】
1つのラインで先頭を走る選手のこと。スタミナや体力に優れた若い選手が担うことが多い。仕掛けるタイミングを自由に決められ、ラインの味方を引き連れることで他のラインを味方の数だけ後ろに追いやることができるメリットがある反面、仕掛けるタイミングが遅ければ、別のラインに追いやられ巻き返すのに苦労するし、早すぎると風圧でバテて大敗するというリスクがある。
【番手】
ラインの2番手を走る選手のこと。3番手は3番手と言うが、2番摘みの茶を2番茶と言わず「番茶」と呼ぶのと一緒。風圧を避けられるうえ、ライン内では前々にいることで優位な位置であり、実績のある選手が入ることが多い。しかし、優位な位置を回るかわりに、他のラインをブロックしたりする役目を担う。また、自力選手の仕掛けが失敗した場合はラインごと不利になりかねない他力本願な戦い方だ。
【単騎】
ラインになっておらず一人で戦うこと。ラインのメリットである風圧対策がとれず一般的には不利な立場であるが、しがらみの無さを利用し、ラインに割り込んだり先に仕掛けたラインに続いていき、他のラインをより不利にするなどの戦い方がある。
【同期】
競輪選手は競輪学校を卒業することで選手になるが、その卒業した時期が同じ選手のこと。ラインを組むうえで通常は、調子や性格を知る普段の練習仲間や近隣の選手と並ぶが、同じ釜の飯を喰ったともいえる同期でラインが成立することもある。
ラインを組む理由とは?
ラインを組まないと、強そうな自力選手の後ろが絶対有利なため、みんなで位置の奪い合いの消耗合戦となって大敗する可能性が高くなる。もし、自力選手が複数いるならば、自力選手の後ろを分け合って戦うほうが消耗が少ないため折り合うほうが結果が安定するのだ。
自力選手から見ても、後ろが揉めてラインが機能しなくなると別ラインの自力選手を仕掛けをさせやすくなってしまうことになる。弱い自力選手のラインに入るのは一見不利に見えるが、ラインを組むことで別のラインを内に封じ込めたり、別のライン同士で位置取り争いをさせて展開を有利にさせることができるため、可能性が生まれるのだ。そのため、ラインは作戦を遂行しやすいように練習仲間や近隣の交流がある選手と優先して並ぶことが多いのである。これだけ理解しておけば、ラインを中心とした競輪のレースがどのように行われているかは見えてくるだろう。
公営競技ライター・Youtuber。近鉄ファンとして全国の遠征観戦費用を稼ぐため、全ての公営競技から勝負レースを絞り込むギャンブラーになる。近鉄球団消滅後、シグナルRightの名前で2010年、全公営競技を解説する生主として話題となり、現在もツイキャスやYoutubeなどで配信活動を継続中。競輪情報サイト「
競輪展開予想シート」運営。また、ギャンブラーの視点でプロ野球を数で分析するのが趣味。
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