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コロナ禍だからこそ読みたくなる! 『もはや僕は人間じゃない』に込めた破壊と癒し

 作家人生、最初で最後のお祭りだ!賀来賢人&山本舞香主演でテレビドラマ化された『死にたい夜にかぎって』の原作者・爪切男が、なんと3か月連続で新作エッセイをリリース。       その第1弾を飾るのが、爪の暗黒期を赤裸々かつユーモラスに綴った『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)だ。人生のどん底をなんとな~く乗り越えていく自身の生き様に、どんな思いが込められているのか。ヤバいくらい刺激的な描写の裏に隠された、ピュアで、真摯で、ちょっぴりクレイジーな爪の本音に迫る。  ちなみに本書は、『死にたい夜にかぎって』の後日譚として書き下ろした実話エッセイ。手痛い失恋、家族との確執、そして新たな性の揺らぎを抱えながら、暗い毎日を送っていた著者が、オカマバーの店員トリケラさんとパチンコ中毒の住職に救われ、さまざまな苦しみをぬるっと乗り越えていく姿を描く。

3ヶ月連続リリースは、締め切りを破り続けた天罰!?

『もはや僕は人間じゃない』を発表した爪切男

エッセイ『もはや僕は人間じゃない』を発表した爪切男

 同じ原稿を書く身として言わせてもらえば、3か月連続で本を出版するなんて、まさに地獄、無謀極まる挑戦である。なぜ、こんな異常事態に陥ったのか。  その経緯について爪は、「締め切りの概念が変わるくらい、締め切りを破り続けた報いでしょうね。特に本書は最初の段階から1年以上も延びてしまって、気付いたら、3冊連続で出さざるを得ない状況に追い込まれてしまった」と苦笑い。 「怒られないとなかなか動かないこの性格、心の中で逆に『早く僕を叱って~!』と叫んでいたのですが、中央公論新社さんがその声に気づき、しっかり怒ってくれたので、なんとか間に合わせることができました」  連載と違って書き下ろしの作品だけに、1からの構築に時間がかかるのは想像できるが、それにしても1年以上とは…! 「前作に登場したアスカの時もそうでしたが、今回登場するトリケラさんと住職さんも、『読者から嫌われてはいけない』というプレシャーが物凄くて。普通に生活している方にとって、『ええっ!』と思うような過激な描写もあるので、不安で筆が止まってしまうことが何度もあったんです。特にトリケラさんはジェンダーの問題も絡んでくるので、かなり悩みましたが……中央公論新社さんが広い心で受け止めて下さったので、あえて“オカマ”と表現させていただき、愛すべきどうしようもない奴等と接した日々を素直に書こうと決断しました」

『死にたい夜にかぎって』の濃厚すぎる後日譚

インタビューに答える作家・爪切男 ドラマ版『死にたい夜にかぎって』を観る限り、(爪がモデルの)主人公はフラれたアスカを新幹線で見送ったあと、悲しみをバネにそのまま作家の道に入ったような印象を受ける。だが、その実態は違った。とんでもない暗黒期が彼を待ち構えていたのだ。 「アスカと別れた後も渋谷のウェブ制作会社に勤めていたのですが、彼女がいなくなった淋しさを紛らわすために、ワーカーホリック状態に陥ってしまって。ある日、それを見かねた社長が、息抜きにオカマバーに連れて行ってくれたんです。きっと彼も、若い頃、オカマさんたちに救われたことがあったんでしょうね」  そして、初めてオカマバーを体験した爪は、その素晴らしさをこう力説する。 「ここでトリケラさんと出会うわけですが、トリケラさんはじめオカマバーの人たちって、忖度せずに思ったことをズバズバ言ってくれるんですよね。どんなお客さんに対してもフラットに接する。過剰なサービスもなく、失恋直後の僕にも特に優しくせずに自然体で接してくれたことが本当に嬉しかった」  さらに、もう一人のキーマン、お寺の住職とのセッションも実に興味深い。反抗したり、ツッコミを入れたり、不思議な関係性で紡ぐ言葉の掛け合いが軽妙で面白く、なぜかほっこり癒されるのだ。 「昔、親父が親戚のお寺といろいろ揉めて、その影響からか僕もお坊さんを訝(いぶか)しげに見るところがあるんです。だからついつい意地悪してしまうんですよね。普通はお坊さんを崇めるものですが、僕には関係ない。どれだけ修行を積んだ方でも、どれだけ偉い方でも、僕は『思ったことをズバズバ言いますよ!』と。まるでトリケラさんのようですが、住職は当時、相当びっくりしたと思います。『私のありがたい話に首を縦に振らないヤツがいる!』って。おめえは普段はパチンコばかり行ってるくせに、何言ってんだ!って話ですけどね(笑)」
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広告制作会社、洋画ビデオ宣伝、CS放送広報誌の編集を経て、フリーライターに。国内外の映画、ドラマを中心に、インタビュー記事、コラム、レビューなどを各メディアに寄稿。2022年4月には、エンタメの「舞台裏」を学ぶライブラーニングサイト「バックヤード・コム」を立ち上げ、現在は編集長として、ライターとして、多忙な日々を送る。(Twitterアカウント::@Backyard_com)

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 3ヶ月連続エッセイ第2弾『働きアリに花束を』(扶桑社)は3月19日に発売され、第3弾『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)は4月26日に発売される。
もはや僕は人間じゃない

爪切男:3か月連続で新作エッセイ第1弾

働きアリに花束を

爪切男が紡ぐ「勤労エッセイ」

クラスメイトの女子、全員好きでした

爪切男が贈るスクールエッセイ
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