古くからの顧客を抱える高級料理店が苦境に。外食産業の厳しい内情
日本フードサービス協会によると、協会加盟約200社の2013年売上高は、前年比0.7%増とファミレスなどを中心に好調な数字を示している。今やテレビ・雑誌・ネットなどでは毎日のように、美味しいお店や食べ物の情報が流されており、世間の“美味しいものへの欲求”は止まる所を知らない。
だが、今、高級料理店、特にフレンチ・イタリアンなどのお店が、相当カオスなことになっているという。食の裏事情に詳しい某有名飲食店の店主が匿名を条件に、その内情を語ってくれた。
「まず予算1人あたり1万円くらいのお店や、昔からの高級店が苦戦を強いられています。予算1万円程度のお店は『カジュアルフレンチ』『カジュアルイタリアン』とリーズナブルなのが売りだったのに、『俺のフレンチ』などの格安店の登場により、中途半端な立ち位置になってしまいました。美味しくて安い店か、ミシュランの星が付いているような高いお店のどちらかにしか行かなくなってきている流れが確実に加速しています。同じミシュランの星付きの店でも、昔から一定の常連客に支えられていたようなお店は、昔からの常連客が高齢化してお店にあまり来なくなってしまいました。例えば会社の重役さんや接待なんかで使われるようなお店ですと、そこの料理をツイッターやブログに載せたり、食べログに書き込んだりするようなお客さんもいないので、昔から名前を聞く有名店でも今はどんどんお客が減っているんです」
比較的新しくできた高級店などは、味と雰囲気がいいのは当たり前で、そこに加えて更にシェフの経歴や接客スタッフのルックスで、他のお店と差を付けているのだという。
「同じソムリエでも、技能よりルックス重視で採用されるなんて話も聞きますね。それに料理人になろうとする人はたくさんいるんですけど、ウェイターやギャルソンはどこも人材不足だと聞いています。シェフで雇った人たちを接客係りに回しているところもありますが、『自分はシェフで入ったのに……』と愚痴をこぼしながら働いている人も少なくない。昔なら、そんなことを言う人間は、シェフから殴られたり問答無用で追い出されたりもしましたが、人材難なのでお店側も簡単に追い出す訳にはいかないですし、今の時代、殴ったりしたら訴えられることもありますからね」
また、昔からあった“飲食業界の仁義”が今は、通用しなくなっているという。
「昔はお店を出す側も土地のオーナーの間でも『1区画に1業種』という、暗黙のルールがありました。しかし今は飲食店も企業経営の論理で動くようになり、そういった仁義は通用しません。ラーメン店の隣にラーメン店、フレンチ料理店の隣にフレンチ料理店があるなんて今ではよくある話です。元々、フレンチやイタリアンのお店は飲食業界の中では少数派だったので、競争というよりは『近くに出来たお店はライバルじゃなくて友達』というフレンドリーな雰囲気がありました。でも、今はそういったお店同士の関係も薄れてきています。また、ホテルや有名店で優秀な料理人が育ったら、その人たちが外に出始めて、業界内で人材も上手く回っていましたし、師弟関係もしっかりあったけど、今はそういう料理人同士の繋がりも薄れてしまっていますね」
こういった店同士の激しい競争は、一体どんなことが起こるのか?
「まず、個人経営の飲食店の減少。資本力のある企業が組織的なビジネスとして飲食店を手掛けて競争を強いられると、個人店は資金的に太刀打ちできないのでどんどん閉店していきます。こうなると、全国どこに行っても同じようなお店しかなくなってしまう。食のグローバル化と言えば聞こえはいいですけど、私はせっかく地方へ旅行に行ったらその土地ならではのものを食べたいと思いますが、今の流れが加速すればそういったことすら難しくなってしまいます。これは日本に限らず世界中で同じことが起きているようですけどね……」
また料理に使う材料の取り合いなども年々激しくなっているそうだ。
「例えばラーメン業界ですと、20年前、とんこつラーメンに使うような豚の頭や豚の骨なんかは肉を買えば無料でもらえたものですが、今は1キロ110~150円になっています。そうなるとモノポリーじゃないですけど、結局は資本力のあるところしか生き残れなくなってしまうですよね」
今まで日本の外食産業では資本力のあるところと、個人店が共存していたようだが、今は資本力のあるチェーン系・個人店関係なく競争に巻き込まれてしまうことも多いという。
「個人料理店のほとんどのお店は、別にがっつり儲けようなんて思っていませんよ。私自身もお店を経営していますが、原材料だけでなく、光熱費・人件費・お店の維持費などを考慮すれば、最終的に残るお金なんて商品値段の1割ほどです。だから、資本力のある店で『格安料理』なんてやられてしまうと、こっちは身もふたもないんですよね……」
安くて美味しいものが食べられることは、消費者からすれば嬉しいことだが、果たして今の状況が続いたときに、飲食業界全体が本当に成長を続けていけるのか、先行きを考えると美味しいものが喉を通らなくなりそうだ……。 <取材・文/トモMC>
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