倉山満「エセ保守、ビジネス保守をあぶり出せ」
―[倉山氏の新刊『保守の心得』]―
前回、「『自称保守』にいま一度、覚悟を問い直したい(https://nikkan-spa.jp/587712)」と語った憲政史家の倉山満氏。「成熟した保守」の確立を目指し、新刊『保守の心得』を上梓した。では、そもそも「成熟した保守」とは何だろうか?
「日本を根本から立て直すためには、自ら能動的に考える『成熟した保守』が必要なのですが、現在、旧来的な『保守』と『革新』といった対立はもはや存在していません。右派と左派という二区分では説明がつかず、少なくとも四区分は必要になっています。まず一つ目を紹介しましょう。本物の左派、つまりは共産主義者です。日本という国が嫌いで、日本政府も大嫌いな人たち。彼らはソ連が滅んでからはさすがに少数派になりました。次に、日本という国は大嫌いなくせに、日本政府は大好きという困った人たちです。戦後日本では最大派閥でしょう。たとえば、東大憲法学、官僚ら組織の利益を国益だと言い張り、権威、権力、栄誉、勲章の類いに目がない。古くは、東京大学で教鞭を執っていた横田喜三郎という人です。彼は『天皇制は廃止すべきだ』という本を書いていたにもかかわらず、勲章をもらえるとわかった途端、古本屋も含めて回収してまわったというエピソードを持つ人物です。彼の小型版は現在でも大勢います」
これらの二つの勢力の特徴は敗戦の影響を過大に受けていることでしょうか。その一方で戦後教育を中心とした価値観に違和感を覚える人たちも増えてきています。
「大正デモクラシーの旗手と呼ばれた吉野作造という人がいます。彼は、日本という国を愛するがゆえに、日本政府を命がけで批判してきました。大正デモクラシー以降の『保守』とは本来この立場であり、私が言う『成熟した保守』もこの区分になります。吉野は、官僚が国家への忠誠を政府への忠誠へとすり替えることを徹底的に糾弾しています。ぜひ、『保守』を自任するのであれば、こういった視線を持ってほしいと思います。最後は、日本という国が好きで、日本政府を簡単に正当化してしまう人たちです。たとえば、ネット右翼と呼ばれる人たちは自らの頭で考えず、何でも素直に受け入れてしまいます。『特攻隊は尊敬すべき人たちだから、特攻を命令した人たちの責任も問わない』というのは飛躍です。重要な点は、『国家と政府は違う』という当たり前の事実に気づいているかどうかです。自称・保守という人に限って、『財務省や日銀は頭のいい人たちが集まっているのだから、批判している人こそ考えが足りないのだ』『財務省が増税を推進し、日銀が頑なにお札を刷らなかったのには、きっと理由があるはずだ』と考えてしまいます。しかし、実際は何もなかった。要するに、思考が停止しているのです」
「成熟した保守」を目指すうえで、日本人の憲法観についても重要視されています。国家を愛するも政府批判を辞さない態度を標榜する倉山さんにとって、安倍首相の掲げる改憲案はどう映るのでしょうか?
「戦後レジームの象徴である日本国憲法は避けて通れない問題です。安倍首相は改憲案を掲げていますが、こればかりは、いくら安倍支持者である私も批判せざるをえません。自民党改憲案は単なる日本国憲法の焼き直しです。現行の日本国憲法は、我が国が培ってきた二千年の歴史を断絶させ、昭和二十年八月十五日を新たな建国記念日にしようという八月革命思想の憲法です。敗戦前の帝国憲法を無視し、しょせんはマッカーサーの落書きにすぎない日本国憲法を改正したところで、敗戦国から抜け出すことなど不可能なのです」
帝国憲法について私たちはまったく教育を受けていません。憲法といえば現行憲法であり、「平和、人権、民主主義」です。日本国憲法は不可侵というイメージがあります。
「今年は、『帝国憲法をタブーから解き放つ』と本気で考えています。そもそも憲法とは制定するものではなく、確認するものです。いま現実に起こっている事態を確認する。条文を書き込んでしまえば、現実に実現する、というものではありません。この点を勘違いしている人が非常に多い……そういったことも新刊『保守の心得』で指摘していますので、日本を守りたいと考えている人にはぜひ読んでほしいと思います。政治家や官僚や、そのほか偉い人たちがどんなに日本を弄んでも、日本国民が守るべきものを守れば、日本は亡びないのです」
倉山氏の新刊『保守の心得』は「学校では教えてくれない『保守入門の書』」を掲げている。「日本は好きだけど何をしたらいいのかわからない」という方は必読だろう。右でも左でもない「保守」を求める日本社会に一石を投じそうだ。 <取材・文/犬飼孝司 写真/本多 誠>
【プロフィール】
倉山満氏。憲政史研究者。シリーズ累計20万部を突破したベストセラー『嘘だらけの日米近現代史』『嘘だらけの日中近現代史』『嘘だらけの日韓近現代史』に続いて、『保守の心得』を3月1日に発売
『保守の心得』 学校では教えてくれない「保守入門」の書 |
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