需要に合わせて肥大化したシャープ・亀山工場は負の遺産なのか!?――大川弘一の「俺から目線」
メルマガ配信サービス「まぐまぐ」創業者の大川弘一。ITビジネス黎明期から会社を運営。子会社の日本最短上場、元役員の訴訟問題など、ビジネスの酸いも甘いも知り尽くした男が、話題の企業を始め、世に氾濫する時事・経済ニュースの“本質”を独自の視点で解析する。
〈第4回 シャープ その3〉
みなさまこんにゃちわ。大川です。
おかげさまで前回の記事はたいへんご好評をいただきまして、各方面の紳士淑女から「くだらなすぎる」と貴重なご意見を頂戴いたしました。
ちょっと気を抜くとすぐに偉そうになりがちな企業分析というテーマですが、やはり私の原点は1990年代の関西の深夜番組にあり、あれこれと数字を分析すればするほど、どこかにオチをつくりたくなってしまいます。
ということで今週も、口いっぱいに牛乳を含んで本稿をご覧いただいているあなたのために、そしてそのミルクができるだけ遠くのおっさんにまで飛ぶように、感じのいい数分間をお届けできれば幸いです。
※前回「シャープ・亀山工場への途上にあるサービスエリアで殿様商売の本質に会う」(nikkan-spa.jp/886986)
土山SAでの生姜焼き事件をあとにして、新名神高速道路を亀山ICに向かう車の中、あらためて現在のシャープが置かれている状況を整理してみることにしました。
■最近のシャープ
2011年と2012年で9000億円の赤字を叩き出し、
2012年に2000名の希望退職を募ったら2960名が反応し、
2013年の6月に迫っていた3600億円の返済は2016年3月に延期してもらい、
つい先日、三菱東京とみずほ銀行に2250億円の優先株(利益が出たら先に配当がもらえる)を発行し、現金2000億円はそのまま両行に即返済。
【2015年3月期】
売上高 2兆7862億円(前期比4.8%減)
赤字 2223億円(前年115億円の黒字)
営業損益(本業の儲け) 480億円のマイナス(前期1085億円の黒字)
自己資本比率 1.5%
これがシャープの置かれた状況です。
財務的にはどこにも安心できる要素がなく、どの角度から見てもまさに丸裸の様相です。かろうじて自己資本比率1.5%という極小ビキニを履いた状態で、
「安心してください。履いてます」
と疑念の払拭を繰り返しても、営業キャッシュフローに改善の兆しが見えない現状ではとても安心できません。
一体どうしたらいいのだろう。
このままではシャープが全裸(連結での債務超過)になってしまう。まぁしょうがないか。
と、同社の将来を憂いていたら、じわじわと亀山ICが近づいてまいりました。
亀山市は、あのカメヤマローソクのふるさとです。世界中で使われている「らせん状」のロウソクや、故人の好物シリーズなどのヒットで知られる同社は、上場企業であればまっ先に投資をブッコミたいほどの優良会社で、再来年に創業100周年を迎えます。
長い間、生糸の生産とカメヤマローソクくらいしかなかった亀山市ですが、昭和36年に低開発地域工業開発促進法が制定されてから昭和40年に高速道路も開通し、隣接する鈴鹿市の本田技研工業に部品を供給する拠点として工業が栄えはじめました。
そして2002年、三重県から90億円、亀山市から45億円の補助金によってシャープ亀山工場が誘致されます。2004年に第一工場が稼働を開始すると、それまで218万円程度で推移していた地域の平均所得は2009年には222万円ほどにまでチョイ盛りし、その間に亀山市の税収も1.8倍程度に増加しました。
2004年からの税収の累計増加額は200億円あまりにのぼり、人口5万人の亀山市としては、博打が大成功であったことには違いないのですが、トーカ堂の北さんが1人で100億円以上のプラズマクラスターを売り捌いたことを考えると、決して大きな金額ではありません。
そしてその後、なんだかんだといろいろあって、今回の苦境に立たされます。この話をしだすと本当に何年かかるかわからないので、ご興味のある方は以下の良書をぜひご覧ください。
※『雇用融解』(風間直樹著 東洋経済新報社)
カーナビに従って高速を降りると、右手に古ぼけたラブホテルが現れます。その向かいには2008年にオープンしたCANDEOホテルがそびえ立ち、時代の趨勢に従って産み落とされたインフラは、需要がある限りその場所に残り続けます。
その先の交差点で右に曲がってしばらく行くと、シャープ第一工場行きのバスが前を走っていることに気づきました。すかさずヨロヨロと後ろに張り付いて、一緒に次の交差点を左に曲がり、光洋熱処理亀山工場、ホンダ子会社の八千代工業、業務用家具のダイシン工業の間を通りぬけ、突き当りの人材派遣会社のある交差点をゆっくりと右に折れました。
その先に現れた交差点の名は「テクノヒルズ西口」。
熟成の進んだ巨大建造物好きの私としては、これ以上そそる名前はありません。テクノロジーそのものも、もちろん大好物ですが、役割を終えて朽ち果てる寸前の建物に、希望に溢れた名前がつけられているなんて、白ご飯10杯はいけてしまいます。あぁ、こんなしょっぱいオカズがさっきのSAであったなら……。うまいこというてるウチにバスはその交差点を右に折れ、私も右に曲がったところで車を停めました。
事前に入館許可を取っていればバスのあとにぴったりとくっついて工場内に入っていくのですが、
シャープ「ここが液晶をつくるところです」
大川「へーーーーずいぶん大きいですねーーー!」
みたいな「舞の海トーク」を受け入れるほど、シャープもヒマではありません。ここは仕方なく中を見ることは諦めて、もじもじと遠くから眺めることに決めました。
デカイ。
IKEAくらいを想像していた予想は見事に砕かれて、全貌を視界に収めることはできません。手前からテレビ組み立て工場、第六世代液晶パネル工場、第八世代液晶パネル工場があり、これだけの設備を十分に稼働させ続けるのは、本当~に難儀なことだとおもいます。
本来、「飛ぶように売れるから」と始められた事業は、需要のサイズに合わせて拡大をしていくため、競争の激化などの理由で需要がなくなると、いつのまにか雇用や設備を維持することが目的になってしまいます。そしてまたブランドと実績だけは残り続けるものですから、顧客目線を持たない自治体や労働組合にも憑依されやすく、あらゆるシガラミを惹きつける「シガラミホイホイ」のような立場に立たされてしまいます。
震災も戦争も、幼少期からあらゆる苦難を乗り越えてきた創業者、早川徳次の根性は、こんな所で途切れてしまうのか。ほんとにお茶プレッソとIGZOだけで、この難局を打破できると思っているのか。北さんに在庫を処分してもらっているだけで黒字転換はできるのか。そして19万9475名の株主は、いつになったら安心することができるのか。
様々な不安を抱えつつ、次回、最終回「シャープ大逆転プラン」をお送りします。〈つづく〉
【大川弘一(おおかわ・こういち)】
1970年、埼玉県生まれ。経営コンサルタント、ポーカープレイヤー。慶応義塾大学商学部中退。大学を中退後、酒販コンサルチェーンKLCに在籍し、95年に独立。97年に株式会社まぐまぐを設立後、無料メルマガと有料メルマガの配信事業を行う。99年に設立した子会社は設立から364日の日本最短記録でナスダックジャパンに上場したが、その際手にした資産も日本最短記録で見失う。
「みんなの投資資料室」http://synapse.am/contents/monthly/daiokawa
資金量300万円で、これから投資をしようとする人向けに、大川氏が毎日ウォッチしている株の「どこを見て、どれぐらい調査して、どう判断しているか」独自の情報収集術とその学習方法を会員限定で公開している。
〈イラスト/松原ひろみ〉
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