不動産会社社長・東宮さんの宿題――連続投資小説「おかねのかみさま」

みなさまこんにゃちは大川です。

連続投資小説『おかねのかみさま』24回めです。

今回の原稿も六本木「SLOW PLAY」で書きました。
家みたいに使えるいい店です。

※⇒前回「心が痛いよね」

〈登場人物紹介〉
健太(健) 平凡な大学生。神様に師事しながら世界の仕組みを学んでいる
神様(神) お金の世界の法則と矛盾に精通。B級グルメへの造詣も深い
死神(死) 浮き沈みの激しくなった人間のそばに現れる。謙虚かつ無邪気
美琴(美) 普通の幸せに憧れるAラン女子大生。死神の出現に不安を募らせる
美熟女(熟) 銀座の高級クラブ「サーティンスフロア」のママ。

〈第24回 大きな宿題〉
「そう。だいたいの人は銀行でお金を借りて、ウチでマンションを買ってお家賃をもらってそこから諸経費を払ったあとに毎月銀行に返済をする。そうすると大体手元に少しはお金が残るから、ローンを払い終えたときにはちょっとずつ貯めたお金と古くなったマンションが残るっていうわけ」

「ほんとだ。マンションも残ってる。しかもそっからもお家賃は入り続けるんですね」

「そう。あたまいいね。だから場所が良ければ古くなってもずっとお家賃が入り続けるんだよね」

「すごいですね。あたし、大家さんになってお家賃もらうのって一千万円とか払える人だけだと思ってました」

「確かにお金をたくさん持ってる会社とか富裕層は一棟まるごと買ったりするけどね。ウチの場合はもっと原始的というか力技で、2000人の電話部隊が機械みたいに電話かけまくるんだ」

「2000人!?」

「うん。なんかね、そういうことするともちろんたまにマンション売れるんだけど、やっぱりなんていうか、心が痛いよね。情弱騙すのって」

「でも!すごいじゃないですか!わたしいまけっこう遠くに住んでるからどっか近くのワンルームに住みたいなー」

「あら、綾ちゃん買ってもらえばいいじゃなーい♡」

「ほんとにー!?」

「買わない買わない」

「えー♡」

「そのうちね♡そうそう、もうひとり新人がいるんだけど、ご一緒させてもらっていいかしら?」

「どうぞ」

「美琴ちゃん呼んでくれる?」

「カシコマリマシタ」

——
———
————

「ミコトサンデス!!」

「こんばんは…」

「こんばんは」

「美琴とわたし、同級生なの♡」

「おー、そうなんだ。じゃあ美琴ちゃんもこんど社会人?」

「あ、はい…」

「おめでとう。どんな会社に就職することになったの?」

「いえ、あの、ふつうの…OLです…」

「そうかー。おめでとう」

「ふたりとも今週から働き始めたところだから、よろしくね」

「はい。こちらこそよろしくね」

「…ぺこり」

「かわいいでしょー、銀座歩いてたときに、あたしから声かけさせてもらったの」

「そうなんだ」

「あー、東宮さん、美琴のことタイプなんでしょうー。あたしのこと見るときと目が違うもん」

「いやいや。そんなことないですってば」

「ねぇ、さっきの続き、聞いてもいいですか?」

「どの続き?」

「マンションの、っていうか、どうやったら東宮さんみたいにお金持ちになれるのかなーっておもって」

「あー」

「あたしも聞きたい!」

「…」

「ゴクリ…」

「うーん。詳しいこと言ってもまぁあれだから、なんというかあれですね」

「わかんない」

「そうだよね。うんとね、さっきも言ったとおもうけど、実は僕、いまの状態は自分であんまり好きじゃないんです」

「そうなの?」

「うん。でもねぇ、それに気づいちゃったのは仕事を始めたあとだったから、もうやり直しがきかなくて」

「あら、まだ若いんだからいくらでもやり直しきくじゃない」

「まぁねー」

「おかねだってたくさんあるんだしー」

「まぁねぇ…」

「なにが…」

「ん?」

「なにがきっかけで… 自分が好きじゃなくなっちゃったんですか?」

「うん。いい質問だね。もう4年くらい前になるんだけど、京都でマンションを販売しているすごい方に祇園祭に招待してもらったことがあったんだ。その時はまだ僕も会社を始めたばっかりだから、誰も知り合いもいないのにパーティから参加させてもらったの。隅っこのほうでね。で、その人の会社の地下にはすっごいワインセラーがあってね、20坪くらいのワイン室にすんごいワインが箱ごと山積みしてあった。その横でみんなで料理を食べながらとってもステキな時間を過ごさせてもらったんだ」

「すてきー」

「しばらくその場所で過ごしたあと、そこから少し離れた社長さんの保有物件の最上階に行くことになったんだけど、そこには石庭や大画面のカラオケ設備なんかがあって、初参加の若造だった僕はずっと圧倒されっぱなしだったんだ。でも、他の方々は何度も社長にご招待いただいている方みたいだったから。それこそ社長そっちのけでモデルさんたちと氣志團歌って盛り上がってたけどね」

「たのしそうねぇ」

「うん。お医者さんも若手社長もみんなとっても楽しそうだったんだけど、大画面の反対側の下座に座った社長さんだけは静かに画面を眺めてて、たまたま隣に座ることになった僕は、ちょっと唐突だけど質問をさせてもらったんだ」

「なんて?」

「綾ちゃんと同じ質問。『どうやったら、こんなにお金持ちになれるんですか?』って」

「オー」

「そしたら社長、遠くを見ながらこう言ったんだよ」

「ゴクリ…」

「『良いものをつくって、普通の値段で売ることです』」

「良いもの…」

「でも、それふつうじゃない?」

「いや、普通じゃないんだ。残念ながら。何よりもその時の僕が売っていたもの自体がそうじゃなかった。『こんなもんでいいでしょ』ってバレない程度のものを、一日中電話で売りつけてただけだった。だからこのときの社長の言葉は本当にショックだったんだよ。なんかこう、すべてを見透かされてしまったような、わかるかな」

「ウンウン」

「でも、そこからココロを入れ替えるとかしたらいいのよね?」

「うーん、もうね、会社って自分で始めちゃうと途中でキャラ変えられないんだよね」

「そんなもんなんだ」

「変えたいけどねー」

「そんな、まだ間に合うと思います!いま気づいてるなら!まだ、いい会社にすることだって!その社長さんにせっかく会えたのもきっと何か理由があるんだし!いまからでもその社長としっかりお話したらきっとよくなるとおもいます!」

「みことちゃん…」

「ね。そうだよね。だけどその方は僕がお会いした10か月後に亡くなっちゃったんだ」

「!!!」

「ご、ごめんなさい…」

「いや、いいんだよ。でも結局そのあと一度もお会いできないまま、亡くなったっていうことだけ知らされたから、自分としては大きな宿題をもらっちゃった気持ちのままでね。結局まだなんにもできてないけど、そういう状態でなんとなく毎日過ごしちゃってる感じはたまに思い出しちゃうから、ねぇ」

「そう…」

「ま、次の人生かな。次の人生のときは、良いものを作って普通の値段で売ろうとおもう。うん。そうするよ」

「そうね!じゃ、みんなで乾杯しましょ!ね!」

「ウェーイ!!!」

「かんぱーーーーーーい!!!」

次号へつづく

【大川弘一(おおかわ・こういち)】
1970年、埼玉県生まれ。経営コンサルタント、ポーカープレイヤー。株式会社まぐまぐ創業者。慶応義塾大学商学部を中退後、酒販コンサルチェーンKLCで学び95年に独立。97年に株式会社まぐまぐを設立後、メールマガジンの配信事業を行う。99年に設立した子会社は日本最短記録(364日)で上場したが、その後10年間あらゆる地雷を踏んづける。

Twitterアカウント
https://twitter.com/daiokawa

2011年創刊メルマガ《頻繁》
http://www.mag2.com/m/0001289496.html

「大井戸塾」
http://hilltop.academy/
井戸実氏とともに運営している起業塾

〈イラスト/松原ひろみ〉

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